2011年7月30日土曜日

「7月中、ほとんどの日、東電ではニューヨーク市に供給できるほどの電力が余った」

  原発推進派は、原発停止による電力不足、それに伴う経済停滞、企業の生産拠点の海外移転による空洞化、節電の必要性と節電によって生じる熱中症、原子力エネルギー以外のエネルギーのコスト高を訴え、原発を止めることによって国や国民の生活が破綻しかねないような主張を繰り返す。

 このような一連の電力会社、経団連を中心とする大手企業、経産省や公共放送を初めとするマスメディアの主張が、どれだけ説得力に欠くものであるか、以下のWSJの記事を読めば、はっきり見えてくる。

 国民の涙ぐましいまでの命がけの節電によって、7月中、東京電力はほとんどの日においてニューヨーク市に供給できるほど電力が余ったそうである。そればかりか多くが懸念していたような経済への影響も特になかったとWall Street Journal には論じられている。


 考えて見れば、企業の生産拠点の海外移転は、原発が50%になろうがなるまいが、これほど円高が進めば、不可避である。

 寄らば大樹の陰で固まっている経営者はさておき、楽天の三木谷氏などは、さっさと経団連から

脱会し、一部の企業は先を見越して、原子力に替わるエネルギーに関するインフラ事業に投資を

初めている。石油危機をバネにして日本はいち早く新しい産業構造の変換を行い、それが70年代

の経済産業の大きな発展に結びついた。同じような大きな変革が今また原発危機をきっかけにし

て、日本の産業界全体に求められているのである。原発と一心同体になって、いつまでも大量の電力を食う既存の産業の振興に拘泥している間に、世界の様々な国々で既に走りだしている新しい大きな産業改革の潮流に乗り遅れることこそをもっと危惧すべきなのではないか。

節電でも衰えない日本経済

時代錯誤の学校の汚染土壌処理: WSJ 

フクシマの学校で土壌の一部を削りとり、それをビニールシートに包んで、土中に埋めるという方法がとられ、放射線量が減って、よかった、よかったと楽天的な報告が随分前から行われている。

確かに地上、地表での計測値は低くなるだろう。大気中に飛散する放射性物質を吸い込む形の内部被曝は回避できる。

しかし、放射能物質は眼に見えないだけで、水で洗ったり、焼いたり、埋めたりしても、決して簡単に消えるものではない厄介なものである。にもかかわらず、普通の汚物と同じような処理をして、本当に減った減ったと喜んでいいんだろうかという疑問がずっとつきまとっていた。

以下Walll Street Journal のウェブサイトの記事で、ミシガン大学のギアフォット教授は、日本ではほとんど議論の俎上にものぼらない、汚染土壌の処理問題について、大きな警告を発している。

地表にあった高線量の放射能物質を水で洗い流しても、地表を削って土中に埋めたところで、地下の土壌や地下水、下水、汚泥、河川、海水へと汚染を拡散させるだけである。原発災害の被害を最小化させるために政府は、技術立国とも思えない、土中に穴を掘って埋めるなどというような時代錯誤も甚だしい原始的かつ安上がりの措置をとっているが、それにかけている費用や労力は、何の抜本的な問題解決にもならないどころか、むしろ問題を拡大化させているというのである。

汚染土壌や汚染稲わら、汚染動植物は、東電が責任をもって、コンテナに収めるなり、なんなりして、フクシマ第一の敷地内に引き取り、きちんとしかるべき処理を迅速に行わない限り、汚染は限りなく日本全土に広がり続けていくのである。政府は軽々に再稼働などと言うが、電力会社が引き起こした原発災害の災厄には際限がないことを、土壌処理ひとつをとってみても、日本の研究者や科学者の知識や技術では、到底コントロール出来ないほど大変であるということを、どれほどしっかり認識した上での判断なのだろうか。

http://jp.wsj.com/US/Economy/node_281454


【肥田美佐子のNYリポート】米原発専門家に聞く「文科省の学校土壌処理は汚染拡大招く時代錯誤」




 「今、いちばん気がかりなのは、福島県内の学校で行われている土壌処理の方法だ。放射性物質の広がりが助長され、コントロールできなくなる恐れがある」
 大震災以来、東京電力福島第1原発の問題解決に向けて奔走する、ある日本の専門家は、放射性物質を含んだ土壌をめぐる当局の方針について、そう憂慮する。
 日本ではほとんど報じられていないが、現地からの情報や英メディアによると、5月後半以降、県内被災地などの学校の校庭では、放射性物質を含有した表層土壌を掘り起こし、遮水シートでくるんで、地面に掘った穴に埋める作業が進められているという。「可及的速やかに、かつ簡便に空間線量を低下させるために、剥離をはじめとする、放射性物質を含む土壌を地表から遠ざける方法が現実的」(日本原子力研究開発機構5月11日付報告書)との認識に基づき、文科省が主導している模様だ。
 もちろん、子どもたちの安全と健康を守るための一時的措置ではある。だが、表層土を地中の空洞(トレンチ)に保管する方法にせよ、表層土と放射性物質を含まない下層土を入れ替える上下置換法にせよ、この2つを組み合わせた方法にせよ、放射性物質が混じった土を地中深く埋めることで汚染が拡大し、収拾がつかない事態になりかねないと、米国人専門家も大きな懸念を示す。
 その一人が、放射線測定や放射線による影響などの研究で高い評価を得ているキンバリー・キアフォット教授(原子力工学・放射線医学・生体工学)だ。同教授は、米原子力工学のメッカであるミシガン大学で教鞭を執る一方、震災後、来日し、福島第1原発の状況について独自調査を行った。日本の原発問題に心を砕くキアフォット教授に電話で話を聞いた。
――現在、福島県で行われている土壌処理についてどう思うか。
キアフォット教授
ミシガン大学キンバリー・キアフォット教授
キアフォット教授 1940年代から50年代にかけて、米国で行われていた方法とまさに同じだ。問題解決よりも、むしろ多くの問題を引き起こす。旧ソ連でも、同じ方法が取られていた。つまり、21世紀の日本で50年代のアプローチがなされている、といえる。放射性物質を含む表層土を埋め込み、上に土をかけることで、放射性核種が地中に広がり、検出がいっそう困難になってしまう。汚染部分が拡大すればするほど、ますます手に負えなくなる。
 埋めた場所を正確に記録する必要があるが、放射性物質が環境内を移動するため、難しさが増す。ビニールシートを使っても、放射性物質は地中で飛び散り、四方に拡散しかねない。地中に埋めると、さらにコントロールできなくなる。
――では、どうすればいいのか。
キアフォット教授 表層土を専用の保管コンテナに入れるのが、はるかに望ましいやり方だ。米国でも使われているが、天候や放射性元素にも耐久性のある非常に頑強な大型コンテナがいい。あくまでも一時的使用が目的だが、水など、あらゆるものを遮断する。
 米国には、昔から多くの低線量放射性廃棄物があったため除染やデコミッショニング(原子炉や核燃料、および関連施設の解体や処分)を手がける企業が多いその結果、50年代とはまったく違う方法が普及している。保管場所については、日本には、米サウスカロライナ州バーンウェルのような低線量放射性廃棄物処分場がないと思われるため、第1原発の敷地内に一時保管するのが理想的と言うしかない。
 万一、地中に埋める場合は、すべての場所を記録し、モニターし続けねばならない。地下水だけでなく、川や泉、湧き水など、地表水も、だ。放射性物質は、非常にゆっくりと環境内を移動しながら、こうした地表水にも入り込む可能性がある。繰り返し言うが、表層土と下層土が混ざることで汚染部分が拡大し、突き止めるのが至難の業になってしまう。今、行われている土壌処理は、長期的に見れば誤りだ。
――かつて米ソで、こうしたアプローチがとられていた?
キアフォット教授 そうだ。米国では、小型研究炉から地面に放射性物質が漏れ出したりした敷地がいくつもあり、除染する必要があった。1920年代には、たぶん日本でもあったと思うが、(放射性物質の一つである)ラジウムの影響もみられた。ラジウムを使った新薬製造によるものだ。ラジウムは半減期が非常に長いため、今も崩壊していない。
――放射性物質は環境内を移動するというが。
キアフォット教授 長い時間をかけて、ゆっくりと地表から地面のより深部へとしみ込み、川や海岸などの地表水、そして、地下水に浸透していく可能性がある。地下水にまで達するまでには、かなり時間がかかるが。いったん土壌に入ると、時を経て植物や野菜、干草に放射性核種がたどり着く。そして、牛が、その干草を食べ、牛の体や筋肉にセシウムが蓄積していく。こうした放射性物質の流出量や移動経路を分析するのが「経路解析」といわれるものだ。
――放射性物質の移動は、どのくらい危険なのか。
キアフォット教授 放射性物質の量による。微量ならば、まったく心配は要らない。注意が必要な一方で、日本では、多くの人々が微量の放射性物質の移動などについて心配しすぎているのも問題の一つではないか。多量なのか少量なのか、状況によってリスクを判断する必要がある。
――原発問題の対処において、最も大切なことは何か。
キアフォット教授 日本政府が、国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会(ICRP)の指示に従うことである。たとえば、以前、問題になった子どもの放射線量の年間許容限度量にしても、ICRPが定める20ミリシーベルトという水準は、(成人の)事故直後に限った数字であり、その後はただちに減らさねばならないと定められている。子どもの許容限度量を20ミリシーベルトとした日本政府の当初の判断は、明確さに欠けるか、誤解を招くものだったといえる。あの決定は大きな誤りだったと思う。
 日本政府が、失った信頼を取り戻すには、情報や決定をクリアにすることに尽きる。そして、IAEAやICRPのアドバイスを正確に遂行することが不可欠だ。