2012年3月26日月曜日

「事故がなくても、原発は悲惨」:小出裕章氏

毎日がやっと3.10に京都で開かれた原発問題に関する市民集会での小出助教の講演をまとめた。新聞社ともあろうものが2週間以上もたって発表するとは、いかがなものかとは思うが、何も発表しないで、素知らぬ顔でスルーする他のメディアよりはましと言わざるを得ない。

小出氏の主張は、首尾一貫して全くぶれない。新しく発足する規制庁は、専門的な知見を踏まえ、しかも金にも権力にも媚びない、小出氏のような立派な人物を中心に人事を進めるべきであるが、そうなると情けないことに、たちまち人手が足りないことになってしまう。日本には、後藤氏、工藤氏、今中氏などごく僅かな人材しか残らないからである。それでも、その人達を核にして、規制の機能を働かさなければ、我々は取り返しのつかない汚れた国土を次世代に送り続けることを是認することになる。

小出氏は言う、「事故がなくても原発は悲惨だと」。

66年の原発操業以来既に作りだされてきた広島原発110万発分の核分裂生成物のゴミを、電力会社や政府は一体この小さな国土のどこに、どのような形で処分するつもりなのか、その議論すらまともになされないままに、保安院は伊方原発のストレステストの結果が妥当であるという審査書を安全委員会に提出した。

政府の広域がれき処理に対しても、小出氏は、放射能は隔離して閉じ込めるという大原則に反するという。汚染地に特別の焼却施設を作って処理するべきであるが、政府の怠慢で建設計画さえ立てられてこなかったのである。

自治体ががれき処理を引き受ける際の2つの条件を挙げているが、各自治体は国から特別の補助金がもらえるからという理由で、安易にがれき処理を引き受けるのではなく、住民の健康を守るという観点から氏の言う、2つの条件をしっかり踏まえてもらいたいものである。

1放射性物質が外に出ないフィルターなどの特殊な装置を必ず増設すること。
2焼却灰は各自治体で適当に処分。利用するのではなく、東電に返すこと。

焼却施設の運転員は小出氏のような専門家に放射性物質の漏出を防ぐフィルターの正しい取り付け方や、安全なフィルター交換の方法や、交換後のフィルターの取り扱い方を事前に習い、実際に個々の焼却現場で試験的に焼却してみて放射性物質が漏れでていないか、確認し、がれき焼却中は継続的に線量計測を継続する必要がある。

むろん汚染されたフィルターを自治体で適当に処分するのではなく、これもまた東電に返す必要もあるであろう。

今すぐ直ちに健康被害はなくても、10年後、20年後、焼却施設の風下の地元住民のがんの罹患率が急増し、原発の二次被害が出るなどということになれば、取り返しがつかないのだからーー。

以下、小出氏の講演に関する記事と、原発推進の日経新聞ウェブ版の伊方原発ストレステストに関する記事を転載する。

http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20120324ddlk26040702000c.html


講演:子供の被曝減らせ 原子力容認、大人に責任--小出・京都大助教 /京都

京都市内で今月10日あった原発問題に関する市民集会「バイバイ原発3・10京都」で、小出裕章・京都大原子炉実験所助教が演説や講演をした。東京電力福島第1原発事故の影響や現状など、発言のポイントをまとめた。【太田裕之】
■事故を振り返って
 私は41年前から原発は危ない、撤退すべきだと言い続け、廃絶させたいと考えてきたが、できないままここに至った。私たち大人には原子力を容認してきた責任がある。福島で今、放射能まみれの大地に子供たちが住んでいることを忘れず、できることを探そうと思う。私は非力だが、あきらめない。若い世代への責任だと思う。
■事故の大きさ
 日本政府がIAEA(国際原子力機関)閣僚会議に出した報告書で、大気中に放出されたセシウム137は広島原爆の約170発分とされているが、これは過小評価。世界の研究者が出している数字の大半は、その2~3倍の数百発分に相当する。海への放出量も同程度あると思う。
福島県の東半分を中心に、宮城、茨城、群馬、千葉、新潟、埼玉各県と東京都のそれぞれ一部地域が放射線管理区域以上に汚染された。私の仕事場である実験所は放射線管理区域で、そこでは飲食も寝ることも、子供の立ち入りも許されていない。汚染地域はまるで逆転した世界になっている。
 被曝(ひばく)放射線量には「これ以下であれば安全」という値はない。どんなに微量でも危険というのが現在の学問の到達点だ。
■第1原発の現状
 4号機は使用済み燃料プールが埋め込まれた階まで破壊された。使用済み燃料は膨大な放射能の固まりで広島原爆の4000発分だ。プールがさらに破壊され水が抜けたり、崩れ落ちれば、防壁のないところで大気中に吹き出す。そういう危険と隣り合わせで私たちは生きている。
 1号機は約100トンのウランなどが圧力容器の中から溶け落ちた状態。格納容器の下の厚さ1メートルのコンクリートの床について東電は70センチは壊れたが30センチは大丈夫と言うが、近寄ることはできず測定器もない。この床を突き抜ければ防壁はない。危機的状況が続いている。
■「原発」とは
 熱効率が33%に過ぎず効率の悪い蒸気機関で、生命体に圧倒的に危険な核分裂生成物を出す。出力100万キロワットの原発で毎日燃やすウランの量は3キロで、広島原爆(核分裂したウランは800グラム)3~4発分。また、原発は冷やし続けないと壊れるが、300万キロワットの発熱量のうち21万キロワットは核分裂生成物から生じる「崩壊熱」で、原発を停止しても止められない。日本では66年の東海発電所の営業運転開始から今日まで広島原爆110万発分の核分裂生成物を生み出した。事故がなくても原発は悲惨なのだ。
■除染とがれき処理
 政府は汚染地に人々が戻れるかのような幻想を与える「除染」という言葉を使っているが、放射能は人間がどんなに手を加えても消せず、放射性物質は無毒化できない。できるのは汚れを移動させる「移染」だ。もう戻れないのだと説明し、生活を補償すべきだ。
 私が最も訴えたいのは、事故に何の責任もない子供たちを守ることだ。校庭など子供が集中的に過ごす場所の土は必ず取り除き、東電の敷地にお返しするのが筋だ。
 政府はがれきの広域処理で、各自治体に、現行の焼却施設で燃やしたうえで猛烈な放射能の塊となる焼却灰を処分させようとしている。放射能は隔離し閉じ込めるという原則に反する。汚染地に専用の焼却施設を作って処理するべきだ。だが、政府の無策の結果、福島を中心とした汚染地にがれきが取り残されたまま、現在も子供たちは被曝を続けている。もはや子供全体の被曝をどう減らすかしか選択の道はなく、全国の自治体が引き受けるしかないだろう。
 それには二つの条件がある一つは放射性物質が外に出ないフィルターなど特殊な装置必ず増設すること。もう一つは、焼却灰は各自治体が勝手に埋めるのではなく、東電に返すこと。福島第1原発の事故処理には膨大なコンクリートが必要で、その部材にすればいい。

http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819890E0E4E2E6EB8DE0E4E2E1E0E2E3E09E93E2E2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4EB


四国電原子力本部長「一つの通過点」 伊方3号機「妥当」判断 

2012/3/27 1:41
経済産業省原子力安全・保安院が26日、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県伊方町)の安全評価(ストレステスト)の1次評価結果を妥当とする審査書を原子力安全委員会に報告したことについて、四国電力の柿木一高・原子力本部長は同日、記者団に対し「国の審査の一つの通過点と認識している」と語った。
安全委での今後の審査については、「審査が円滑に進むよう真摯に対応する」との方針を示した上で、「地元の理解を得て、一日も早い運転再開に向けて全力で臨む」と述べた。
愛媛県の中村時広知事は、「原子力安全委員会は厳正に確認作業を進め、四国電力は国の指摘に真摯に対応するとともに伊方原発の安全確保に努めてほしい」というコメントを発表した。