2011年7月2日土曜日

小佐古氏 vs.西山氏: フクシマ原発をめぐるインタビュー

 ウォールストリートジャーナルは7月2日、元内閣官房参与で放射線安全学の第一人者と言われる小佐古敏荘氏をインタビューした。政府の放射能問題対応に涙の抗議をして辞任会見後、メディアの取材に初めて応じたという。

氏は今後放射能汚染の脅威がさらに露呈する可能があると警告し、政府の意思決定メカニズムはとても民主主義社会のそれとは思えず、東アジアの途上国のような状況であると言い切っている。

海外メディアにあれこれ発信するのも結構であるが、日本の国民に対しても、出版その他の形で、専門的な立場からしっかりとした発信をしていただきたいと願う。莫大な研究費が国民の税金の中から支払われたものであるならば、研究成果を国民に還元することことが、研究者としての第1の使命であろう。

このインタビューと好対照なのが、以下のブログの中に収録されている経産省の元スポークスマン、西山審議官の最近のインタビューである。

気になるのが、日本のエリート官僚の中でも最高位にいるとされる彼が、かくも稚拙な答弁しかできないという点である。それよりも何よりも、専門的なバックグラウンドを持たないド素人で、東電が娘の就職先であるという極めて個人的な繋がりを持つ彼が、原子力の専門家のごとく、東電に対して客観的な公人という立場にあるかのごとくにふるまい、発言している点に呆れ果ててしまう。

とりわけ、日本のエネルギーの30%は原発に依存してきたのだから、これからも必要であるという理由にもならない理由で議論を締めくくっている点などは秀逸である。

モラルといい、品性といい、教養といい、英語によるパブリック・スピーチの能力といい、日本の上級公務員試験・採用方法の在り方、エリート官僚の育て方を抜本的に見直さなければならない曲がり角に来ているのではないか。



【インタビュー】日本の放射能問題は深刻=元内閣官房参与・小佐古氏


【東京】菅内閣の元官房参与、小佐古敏荘氏(61)が原発事故に対する政府の対応を痛烈に批判し、今後、放射能の脅威がさらに露呈する可能性があると警告した
イメージAgence France-Presse/Getty Images
辞任会見で涙を見せる小佐古氏
 ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じた小佐古氏は、菅内閣は海の汚染や魚への影響について迅速な分析ができておらず、汚染除去コストを最小限に抑えるために特定の放射能の危険性を過小評価していると述べた。日本の放射線安全学における第一人者である小佐古氏がメディアの取材に応じたのは、4月に内閣官房参与を辞任して以来初めて。
 同氏は、茶葉やほうれん草など、食品の汚染については、既に散発的に報告されているものの、今年後半、特に日本人の主食である米の収穫が始まった頃に、より広範な、憂慮すべき問題が明らかになるだろうとした。
 同氏は、「今年の秋の収穫の時期が来れば混乱がおきる。収穫した時に米の中に、どのようなレベルかわからないが、放射能が入っている。それがスキャンダルになり、東北の米は買わないということになれば、やっかいなことになる」と述べた。
 さらに、3月11日に原子炉が津波の被害を受けて以来、福島s第1原発の状況に対して政府がとってきた対応は、日本の政策決定のまずさを露呈したとし、「政府の意思決定メカニズムははっきりしない。どういう理屈で何を決めているのかはっきりしない。とても民主主義社会とは思えない」と述べ、東アジアの発展途上国のような状況になっているとの見方を示した。
 小佐古氏は、具体的に、校庭における放射能の許容水準を超える学校が17校にとどまるよう、政府は許容水準を比較的高いレベルに設定した、と述べた。同氏が主張していたようにより低い水準に設定した場合、何千校もの学校で全面的な放射能除去作業が必要になる。菅首相率いる民主党は補正予算の国会承認を得るために苦慮しており、同氏は、このようにコストがかかる選択肢は支持されなかった、としている。
 「今の内閣は生き延びるためだけに、色々な対策をうっているとしか私には考えられない」と同氏は述べた。
 本紙が小佐古氏の主張について政府のコメントを求めたところ、内閣府の高官が匿名で回答し、政府は海の放射能除去に向けて最大限の努力をしており、漁業従事者やその他関係者と緊密に協力していると述べた。
 同高官は、「特に主食の米には細心の注意をはらっている」と述べ、既に作付けは制限されているが、もし基準値を超える放射能が検出された場合は出荷を停止すると付け加えた。
 また、学校の問題については、政府は許容レベルの引き下げに向けて検討中であり、追加措置も考慮しているとした。
 今年4月30日、政府や学界の審議会などに数多く参加してきた東京大学教授の小佐古氏が菅内閣の官房参与を辞任したため、政府の原発事故対応をめぐる懸念に拍車がかかった。小佐古氏は、同氏を含む専門家が行った多くの申し入れは取り入れられなかったとしており、政府が定める校庭の放射能許容水準は「受け入れられない」とした。自分の子どもでもそういう目に遭わせることはできないと記者会見で涙をぬぐう同氏の姿は全国に放映された。
 その後2カ月間、同氏は東京大学で放射線安全学の講義に集中してきたが、まずは海外で心の内を明かす準備ができたと述べ、今後数週間は米国や台湾で講演を行う。
 同氏は、特に、被災した原子炉から周辺の海に廃棄された大量の放射性物質が海を汚染する可能性について懸念を深めている。政府は、福島第1原発の原子炉冷却過程で、何が海に廃棄されたのか、大ざっぱな報告しか発表していない。小佐古氏は、海水の監視や、汚染水の拡散状況の予想をこれまで以上に行い、海草から貝類、魚類にいたるまで様々な種類の汚染に対応するための措置を実行するように求め、「ずっとやれやれといってきたのに、やっていない」と述べた。
 同氏は辞任の際、官房参与だった6週間に行ったすべての申し入れをまとめた、「福島第一原子力発電所事故に対する対策について(参与提言を中心に)報告書」と題する分厚い文書を政府高官に提出した。本紙は独立した情報源からその文書のコピーを手に入れている。
 3月16日に官房参与に着任して以来、小佐古氏とその他の専門家の一部は幅広く様々な提言を行ってきたが、中には何週間も経ってから一般に知られるようになったものもある。例えば、3月17日には、政府の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で「合理的な最悪のケース」を使い、住民の被曝レベルを予想することを提言した。
 3月18日には、政府の原子力安全委員会に対し、SPEEDIによるシミュレーションに基づいて、当初の避難区域の妥当性を再考するように勧告した。
 しかし、SPEEDIデータは3月23日まで一般には公開されず、避難区域は4月11日まで変更されなかった。政府を批判する向きは、そうした遅れによって、何千人もの福島県住民が高レベルの放射能にさらされた可能性があるとしている。