2012年2月23日木曜日

脱原発のドイツが原発国フランスに電力輸出:原発擁護論の謎

原発の安全神話が崩壊した去年の3月以降、原発推進の御用学者やそれにつながる大型メディアから、私たちはことあるごとに、原発は安定した電力供給が可能な唯一のもっとも安価なエネルギー源であり、原発という選択肢を選ばなければ、たちまち電力不足に陥り、日本の経済は空洞化すると吹き込まれてきた。

しかし本当にそうなのだろうか、あまりにも疑問点が多い。

まず、原発災害の直後にアメリカ政府が、原発に頼らなくても、日本のエネルギー供給には問題がないと発表したことについては、このブログにも関連記事を転載した。

これは、国家間の安全保障にも関わる重要な事項であり、米政府の関係機関が、日本の夏の猛暑や極寒の冬を想定もせずに、あてずっぽうにはじき出した試算ではないはずである。日本政府はこの報道について何も反応をせず、やっと今年になって枝野経産相が遅まきながら、今年の夏の電力は全原発が停止しても、問題はないと公式の場で認めた。そして、この発言についても、いまだ誤りであったとの撤回はなされていない。

この2つの情報だけをとってみても原発などなくても、(現存の火力、揚力、水力発電所、あるいは企業の自己発電だけで)、十分にやりくりができるということを示していると言えるのではないのか。

もちろん、九電の火力発電所のように発電所が事故など起こせば、たちまち電力不足をきたす。しかし、大きな火力発電所や水力発電所が大事故を起こしたところで、その収束の容易さは原発災害とは、時間的にも、経済的にも、まったく比較にならない、取るに足りないものであることを私たちはフクイチの原発災害で思い知った。

風力発電のプロペラの軸が折れようが、火力発電所が爆発しようが、発電所とその周辺何十キロにも及ぶ家や、森や、大地や、海や、水や、生物のすべてが汚染にまみれ、事故の収束に何十年もの歳月と、何十兆円という費用がかかったり、立地自治体、周辺住民の健康被害どころか、狭い国土に生きる大多数の国民が汚染の不安に駆られるようなことにはなりえないからである。

しかし彼らはいうだろう。「今ある発電所のどこかで、事故が起こればたちまち電力供給ができなくなるから、やっぱり既存の原発の再稼働は不可欠だ」と。

ところが、この種の説明も、もはやまったく説得性をもたない。2月に起きた九電の大分火力発電所の事故のときは、電力不足であるはずの関西電力や東電が、九電に電力供給をしたというではないか?
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201202/2012020300145

そのことについては、薔薇っこの過去のブログの中でもニュースを転載してきたし、以下に掲げる「Web論座」の竹内敬二氏記事(抜粋)の中でも論じられている。

確か、電力関連のお偉い専門家の概説によれば、西と東は電圧が違うので、電力の融通はできなかったはずなのでは?「できない、できない」といっておきながら、いざとなれば、ちゃんと、できているではないか?ここにも何か嘘があるようである。

もうひとつ、「原発の電力安定供給」 という点についても、大きな疑問がある。

電力の7割を原発が占めており、電力の安定供給ができるばかりか、他国に輸出までしている原発大国フランスが、フクイチを教訓に脱原発をめざしているドイツから、この冬電力供給を受けなければ、やりくりできない状況が現実のものとなっているのである。

冬のフランスは寒い、しかし、ドイツも負けず劣らず寒い。だから今年のフランスは例年になく寒いからなどという気象条件はまったく理由にはならない。

今は、その種の番組はすっかり姿を消したが、一時は、日本のエネルギー問題をめぐって、専門家が、お茶の間のテレビ番組に登場し、討論を繰り広げることが、昨年の春から夏にかけて何度かあった。

自然エネルギーの推進、あるいは脱原発の主張をする、どちらかといえばおっとりした能弁とは言い難い専門家に比べて、原発擁護派はしっかりした論客をそろえていることにも薔薇っこは大きな疑問を感じた。

しかしそれ以上に、前者がドイツを例にあげて日本でも脱原発は可能だと言うと、たちまちその議論を遮って、後者の御用学者の方々が、小馬鹿にしたような口調で、「ドイツは脱原発といってはいるが、フランスの原発で作った電力を輸入できるから、脱原発なんて言ってられるのです。日本は島国で、ドイツのように隣から融通してもらうなんてことできないんです」とばっさり斬り捨てておられたことが、今も記憶に(DVDにも)しっかり残っている。

しかし事実は全く異なるではないか。おまけに、原発推進派のサルコジは現在苦戦中で、対抗馬と目されているフランソワ・オランド大統領候補はフランスの原発依存のエネルギー政策に歯止めをかけようとさえしているのである。

原発推進派、擁護派の議論は様々な現実の中ですでに完全に破たんをきたしている。安全でもなく、安定供給ができるわけでもなく、安くもない原発を一体だれのために再稼働させる必要があるのか。

最近は何かといえば、立地過疎地の住民の声が焦点化され、原発をとめられると生活できなくなるからという報道が意図的に流されている感がある。

私たちは、全国の過疎地にある原発立地自治体やそこに居住する、わずかな住民の生活を守るためだけに、国民の健康や安全を犠牲にし、原発事故によって生じる膨大な負債のつけを延々と支払わなければならないとでもいうのだろうか。

オルタナティブがあるならば、そして今のように原発をめぐる目を覆いたくなるような事実が白日の下にさらされていれば、薔薇っこは断じて東電の汚い電気など、びた一文たりとも買わなかったであろうし、これからも断じて買いたくない。たとえ原発を利用しない主義の電力会社に、2倍、3倍の電気料金を支払わなければならないとしても。

それは決して薔薇っこがリッチで、生活にゆとりがあるからではない。

夏の電力節約術については前にブログにもいろいろ書いたので、何度も繰り返さないが、それに加えて、ヘアドライアーや洗濯物の乾燥機を、自然乾燥に代えてでも、冬の寒さをガス暖房に変えてでも、そうしたいと思うし、そうしなければならないと思う。

もちろん電力会社が送電線の独占を放棄し、発送電分離が理想的な形で行われ、スマートグリッドなどの制度が速やかに導入され、原発以外のエネルギー利用の推進が国を挙げて積極的に進められさえすれば、オルタナティブの会社に2倍の電気料金を支払わなければならないような事態も生じないはずであるけれども。

以下関連記事を転載する。


http://mainichi.jp/select/world/news/20120220dde001030011000c.html

ドイツ:脱原発しても…電力輸出超過 再生エネ増、消費減で
【ブリュッセル斎藤義彦】東京電力福島第1原発事故後に「脱原発」を決め、国内17基の原発のうち約半数にあたる8基を停止したドイツが昨年、周辺諸国との間で、電力輸入量よりも輸出量が多い輸出超過になっていたことが分かった。脱原発後、いったんは輸入超過に陥ったが、昨年10月に“黒字”に転じた。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの増加と、全体のエネルギー消費量を抑える「効率化」が回復の要因だという。厳冬の影響もあり、電力不足の原発大国フランスにも輸出している。

 ◇「原発大国」フランスへも

欧州連合(EU)加盟27カ国など欧州の34カ国の送電事業者で作る「欧州送電事業者ネットワーク」(ENTSO-E、本部ブリュッセル)の統計。冬はエネルギー消費量が最も多いことから、ドイツ政府は「(脱原発決定後の)最初の試練を乗り切った」(レトゲン環境相)としている。
ドイツは昨年3月の福島第1原発事故後、17基の原発のうち旧式の7基を暫定的に停止し、その後、1基を加えた8基を昨年8月に完全停止した。震災前は周辺国との電力収支が輸出超過だったが、昨年5月に輸入超過に転落した。フランスからの輸入が前年の3割増になるなど昨年9月まで輸入超過の状態が続いた。
しかし、昨年秋に入ってから好天が続き、太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電に有利な条件が整った。また、ドイツ政府が住宅の断熱化などエネルギー効率化を推進したのに加え、原油価格の高騰も手伝って、エネルギー消費量が前年比約5%減になった。このため昨年10~12月の電力収支は輸出超過を回復。11年の通年で約4200ギガワット時の輸出超過になった。
今年2月に入り、欧州各地で氷点下10度を下回る厳冬になると、電気暖房が全体の3分の1を占めるとされるフランスで原発をフル稼働しても電力が足りなくなった。このため、2月の17日間のうち6日間は電力需要の多い午後7時ごろを中心にドイツからフランスへの輸出超過になり、電力の7割を原発に頼るフランスが脱原発のドイツに依存する事態になった。
昨年のドイツの発電量に占める原発の割合は約22%から18%弱程度に低下する一方、再生可能エネルギーは約20%に上昇した。さらに、褐炭、石炭、ガスなどが微増しており、原発の目減り分を補っている。
一方、日本では再生可能エネルギーによる発電量(10年度)は全体の約10%にとどまり、太陽光や風力など水力以外の新しいエネルギーは約1%に過ぎない。
毎日新聞 2012年2月20日 東京夕刊


原発稼働ゼロでも「夏乗り切れる可能性」=枝野経産相

2012年 01月 27日 11:46 JST




[東京 27日 ロイター] 枝野幸男経済産業相は27日の閣議後会見で、原子力発電所の稼働が全くない場合でも電力需要に対応できる可能性はあるとの認識を示した。同相は「電力使用制限令や日本の産業に大きな影響を与えることなく乗り切るための検討は進めている」と述べた。

現在全国の原発54基のうち稼動しているのは3基。4月末に北海道電力(9509.T: 株価,ニュースレポート)泊原発3号機が定期検査に入り、他の原発の再稼働がないと国内で稼働する原発はゼロとなる。枝野経産相は原発の再稼働について「原発がこの夏どのくらい利用されるのかされないのかは、安全・安心という(電力需給とは)全く別次元で結論が出るので、どうなるかわからない状況だ」と述べた。

政府の試算では、原発稼働ゼロで一昨年夏並みの猛暑となった場合、最大電力に対する供給力が全国で7%不足する。稼働ゼロで夏の需給を乗り切れるかどうかについて枝野経産相は、「もし全ての原発が利用できないと電力需給は相当厳しいと予想されている。節電のお願いはしなければいけないが、電力使用制限令によらずに乗り切れる可能性は十分にある」と述べた。根拠については「数字も含めて様々な検討を進めている」としたが、具体的には示さなかった。

東京電力(9501.T: 株価ニュースレポート)への公的資本注入に関して同相は、「全く決めていない」としながらも、「東電の話ではなく、一般論として税金を利用して、(対象企業に対する)権限や責任を負わないのは納税者に対して無責任だと思う」と述べ、東京電力に公的資金を注入するには、議決権の確保が必要との認識を示した。

(ロイターニュース、浜田健太郎)

節電と全国融通で「原発ゼロ」を乗り越える。送電容量は「埋蔵金」                  2012年2月20日        
                  朝日新聞論説委員 竹内敬二氏

福島原発事故から4カ月後の昨年7月13日、朝日新聞は「原発ゼロ社会への提言」という論説主幹論文を出し、その中で「20~30年で原発ゼロをめざそう」と主張した。筆者も論説のメンバーとして議論に参加した。「原発を厳しい目で見るが、存在を否定しない」というそれまでのポジションとは大きく異なるもので、かなりの議論を重ねて出した決断だった。
それから半年、「運転原発ほぼゼロ状態」がこんな形で来るとは思ってもみなかった。そのゼロへの道のりは、劇的なものではない。定検で原発が順番に止まっているうちにここにたどり着いたもので、政治や社会の「一大決定」があったわけではない。ただ、「できれば原発を減らしたい」「簡単には再稼働して欲しくない」という意識は背景にあるだろう。
いま、多くの人はあっけにとられているのではないか。気がつけば、54基の原発がほぼ止まり、それでも社会が平穏に動いている。そして、この夏についても、「強制的な節電令を出さなくても乗り切れる可能性が大きい」(枝野幸男経産相)という。どういうことなのか。あまり使われなかった火力発電所がいかに多かったかを示している。節電の貢献も大きいだろう。
ただ、今後も原発の大量停止が続くかどうか。社会の大議論を経ているわけではないので、ストレステストが「妥当」とされ、保安院の「安全のための30項目」について「ほぼクリアできている」とされ、さらには「中期的にはもっと安全にする予定」などとなれば、雪崩のように再稼働が続くかもしれない。どちらに進むかは、社会における今後の議論にかかっている。
再稼働の考え方としては、1)安全性と需要面からの原発再稼働の必要性は分けて考える。2)この夏の需要を厳しく考え、ぎりぎりで供給力がいくら足りないのかを割り出す。
この二つだろう。2)についていえば、カギは「節電」と「広域融通」である。この可能性を最大限探るべきだ。
関西電力は「この夏20%の供給力不足が考えられる」といっている。これは、とんでもない猛暑だった「一昨年の真夏のピーク需要」と、「原発の再稼働がなかった場合の供給力」を比べたときのものだ。
この想定によると、9電力のうち6社で供給力不足が起き、日本全体でも9%の不足と計算される。
しかし、東日本を中心に節電が行われた「昨年夏の需要ピーク」と「昨年夏の供給力」を比べると、供給力不足は4社に減り、日本全体では供給力に4%の余裕がでる。
さらに、「東3社」(北海道、東北、東京)、「中西部6社」の2グループで考えると、どちらも余裕が出ることになる。つまり、50ヘルツ帯で電気を融通し、60ヘルツ帯で電気を融通できるとすれば、停電は完全に回避されるということになる。
昨年は関電を含む中西部ではあまり節電は進まなかった。今年、「ピーク需要を削れば料金が安くなる」ような制度を整えれば、問題は起きないという計算になる。「節電」と「融通」はきわめて強力な停電回避策である。
日本の送電網は、電気を広域融通できない分断された送電網になっている。欧州では欧州全体で一つの送電網をつくろうとしているが、日本では各電力会社ごとに国土を分割して営業し、送電網も分割されている。各社の送電網をつなぐ連系線も細く、自由な融通ができなくなっている。
そういわれてきた。しかし、最近、あっと驚く事態が起きた。2月3日、九州電力の新大分発電所(LNG、230万キロワット)が急に止まり、九電は、急きょ、全国に助けを求め、東電を含む数社から計240万キロワットを確保し、結果的には210万キロワットが融通された。
これは驚くべきことだ。公表されている連系線の容量でいえば、九電に入る量は30万キロワットしかない。なのにいざとなると240万キロワットが入るのである。
電力業界の説明では、『運用容量』は30万キロワットだが、設計上の能力である『送電容量』は557万キロワットだという。だから無理をすれば、240万キロワット程度は使えるのだという。しかし、いつもは30万キロワットだけを示している。それにしてもあまりに数字が違い過ぎる。「できれば連系線を使いたくない」という電力業界の思いが、「あまり融通できない」というポーズにつながっているのだろう。