2011年7月20日水曜日

ジャーナリズムの劣化

 今日のWall Street Journal日本版のJapan Real Timeには面白い記事が掲載されている。

九州原発のヤラセメール事件と、資源エネルギー庁が原発に関する「不適切・不正確な情報に対応」するために、新聞やネットを監視し、「不適切・不正確な」言論を収集していたというネット監視事件という2つの大きな事件を、7月以降立て続けにスクープしたのは、大手メディアではなく、共産党の機関紙であったという。

大手メディア各社が、このスクープをしたのが赤旗であるという事実に口をつぐみ、「最初は大した扱いをしていなかったネタを、あたかも自分たちも最初からそのニュースを評価していたかのごとくに報道している」という事実から、金井氏は日本の昨今のジャーナリズムの劣化を指摘している。

高い志を持って権力の暴走に抗い、報道に命をかけるような不撓不屈のジャーナリストは日本社会からすっかり姿を消した。それは新聞講読をしない国民、テレビを視聴しない国民が激増していることと決して無関係ではない。政府もメディアも頭から国民を馬鹿だと思い込んでいるような節があるようだが、日本国民は彼らが考えるほど愚かではない。 

日本のメディアも相当心して体質改善、構造改革をしない限り、権力に擦り寄り日和見を決め込んでいるだけでは、誰も見向きもしないものになるのではないか。


http://jp.wsj.com/japanrealtime/2011/07/20/%E3%81%AA%E3%81%9C%E8%B5%A4%E6%97%97%E3%81%B0%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%8C%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%97%E9%A3%9B%E3%81%B0%E3%81%99%E3%81%AE%E3%81%8B%E2%80%95%E3%80%8C%E3%82%84%E3%82%89%E3%81%9B/?mod=JRTAdBlock2


なぜ赤旗ばかりがスクープ飛ばすのか―「やらせメール」「ネット監視」など




九州電力の原発に関する「やらせメール」が注目を集めた。また、資源エネルギー庁が「不適切・不正確な情報への対応」のために新聞やインターネットを監視し、原発に関する言論を収集していたことも判明した。このニュース、どちらも日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が報じたスクープである。
ジャーナリズムが帯びている役割は、国民にとって大切な問題であるのに、なぜか知らされていない出来事を世の中に知らせるというのがひとつである。そして、もうひとつ非常に大切なのが、権力の監視という役割である。
九州電力そのものは民間企業だが、原子力発電という国家的な事業を担っており、政府の方針とも密接に関わっている話である。その半国家企業が世論を誘導する「やらせメール」問題を起こしたのだ。また、資源エネルギー庁の件はまさに権力そのものに関するニュースだ。このように、権力が暴走しないよう監視を行い、暴走の危険性が高まった時は、取材を繰り返して真実を暴き出して市民に伝えるというのが、ジャーナリズムの理想的な姿であり、負わなければならない最大の責務でもある。
私は特に支持政党を持たない、いわゆる無党派層である。報道機関に関しても、各々の主義主張には関係なく幅広く目を通すようにしているし、果たすべき役割を果たしているメディアは率直に評価するよう心がけている。
さて、これだけ大きなスクープが2本、なぜ間をあまり置かずに赤旗から出てきたのか。言い方を変えると、なぜ赤旗からしかこうしたスクープが出ないのか。私はこれを単なる偶然とは見ていない。誤解を恐れずに言えば、また陳腐な言い方ではあるが、既存の大手メディアの劣化が著しいように感じるのだ。ただし、高い志とあくなき探究心でニュースを追いかけている記者を何人も現実に知っており、劣化が感じられるのはあくまでも一部の記者である。それでも、大きな責務を担うジャーナリズムに関わる人間が劣化すれば、その責務を果たせなくなり、重大な結果をもたらしかねない。
九州電力の件は、経済産業省が主催し6月26日にケーブルテレビで放送した県民向け説明番組が発端となった。その番組にやらせメールが送られていたことを赤旗が報じたのは7月2日だが、当初はあまり反響がなかった。しかし、6日の衆院予算委員会で共産党の議員がこの件について取り上げ、九州電力の真部利応社長が同日夜に記者会見で謝罪すると、急に大きな問題として他のメディアも取り上げ始めるという展開を見せた。
大手紙の中には、赤旗の報道後に九州電力に問い合わせたものの、同社に否定されるとそのまま矛を収めてしまった記者もいたと聞く。最終的には当事者の九州電力の社長が認めるような、これだけ重大な真実が控えていたにも関わらず、である。その記者が他にどんな取材をしたのかは知る由もないが、なんとかもう少し粘れなかったのだろうか。
今回のやらせメールに関しては、内部告発がきっかけとなって明るみに出た。この告発者はそもそも赤旗だけに事実を明かしたのか。それとも、他のメディアにも伝えたのだろうか。もし前者であれば、共産党や赤旗に共感を寄せていたためとも考えられなくはないが、これまでの赤旗の報道ぶりを目にし、「この新聞ならば報じてくれるのでは」という期待が高かった可能性もあるだろう。一方、後者であった場合、赤旗だけが真剣に取り組み裏取りに成功して報道し、他のメディアは関心を寄せなかったか、あるいは裏が取れなかったか、といったあたりということになるだろうか。いずれにせよ、やらせメールの依頼という重大なニュースを当初は赤旗のみが報じていたという事実だけは残るのだ。
経緯はどうあれ、結局のところ、やらせメールに関して多くのメディアが大々的に報じるようになり、玄海原発の運転再開に「待った」をかける動きに変わったことはご存じの通りである。そうした中で、もうひとつ気になるのは、赤旗のみが先行して報道していたことには口をぬぐって何も触れず、他のメディアが淡々とこのニュースを報道している点だ。私もジャーナリズムの世界に長い間身を置いていた人間なので、ある社がスクープしたネタについて、他のメディアは何とかして独自に裏を取って追随しようとするし、スクープを放った社の名前にはできるだけ触れたくないという心情も理解している。それでも、当初は大した扱いもしていなかったネタを、あたかも自分たちは最初からそのニュースの価値を評価していたかのように報道する、というのはどうにも腑に落ちないのだ。
原発をめぐっては、一部の人々がなんとか隠しおおせたいと願うようなネタはまだ尽きないはずだ。次こそは赤旗以外の社に、権力への遠慮をすることなく、また簡単に諦めることなく食い下がって、鮮やかなスクープを放って欲しいと期待している。