2011年11月11日金曜日

TPPの政治ショー

TPP交渉参加についての方針発表の記者会見を首相が1日先送りした。だから何なのか。

慎重派と賛成派の攻防は、所詮政治ショーに過ぎないと、古賀茂明氏は言った。そのとおりだと思う。

真剣勝負だというならば、そもそも反対と奇声をあげていた農水族らがいつの間にか、慎重派にすり替わったこと自体が不可解である。経団連の会長に配慮したのだろうか、それともアメリカを敵に回しては、経産省や外務省の役人の機嫌を損じてはまずいという政治的な判断なのだろうか。

1日延ばして、ごねのポーズを示し続ける慎重派をなだめ、適当なところで落としどころを見出そうという腹なのだろう。農水族を例にとれば、TPPによって損益が生じる農家に対して多額の補償金拠出のための予算を要求し、それを首相が認めて手打ちにしてしまう算段なのであろう。

TPPで輸入農作物が安くなるなどと小躍りしている裏で、農家の所得補償のためにがっぽり税金を支払わされるはめになるのは、他でもない国民なのである。

国内のまじめな専業の農業従事者はますますやる気を喪失し、食料自給率はますます低くなることは目に見えている。国家戦略上、食料自給率が今以上に低くなることは、大変危険なことであるという認識があまりにも少ないことに驚かされる。

TPPの問題について、危ぶまれているのはもっぱら農業、医療、金融、共済の部門に関してばかりだが、経団連がこれを推進しようとするのは、海外の労働力確保を促進するという目論見があるからである。確かに少子高齢化による労働者人口減少の問題が盛んに議論されはじめた80年代から、ろくな対策を立ててこなかったし、現政権においても、何ら打つ手がないという状況ではある。

目先の金儲けしか目がない日本の大企業の経営者にとっては、安い労働力が確保できればそんな望ましいことはないと考えているのだろうが、海外からの労働者の移入は、ヘタをすると国民の雇用を奪うことにもなりかねない。

また、前にブログでも詳しく書いたが、今のよう内向き、閉鎖的な日本の社会状況のもと、大量の外国人労働者を受け入れれば、たちまちイギリスで引き起こされているような深刻な移民問題を抱え込まなければならなくなるのは必定だろう。

TPPは日本社会の在り方そのものを根本的に変えてしまう危険性をあまりにも多く孕んでいる。国のリーダーたちが既得権益を守ることにしがみつき、国の行く末について、なんら説得力のビジョンすら国民の前に示せない、国としての体をなしていない状況の中で、交渉に参加しても、大国の食い物にされるだけであることは目に見えている。

以下には、TPP参加に猛然と反対していた京大の中野剛志氏のインタビューを一部省略して転載する。

http://mainichi.jp/photo/archive/news/2011/11/10/20111110k0000e010092000c.html

TPP:首相会見11日に先送り 「1日考えさせて」

野田佳彦首相は10日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加の是非に関し、首相官邸で開いた政府・民主三役会議で「1日よく考えさせてほしい」と述べ、政府方針を発表する記者会見を11日に先送りした。12日からハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に交渉参加を表明する考えに変わりはないとみられるが、民主党内の慎重論に押されて「政権で最初の重要な決断」(首相周辺)にもたつく形になり、首相の求心力低下につながる可能性も指摘されている。
 首相は10日午後、政府・民主三役会議と経済連携に関する閣僚委員会で政府・民主党の方針として交渉参加を決定したうえで、同日夕に記者会見して国民向けに説明する意向だった。しかし、首相は同会議で「(11日にTPPに関する)予算委員会(の集中審議)があるし、皆さんの思いもある。決めたら、また集まってほしい」と語り、11日夕に改めて同会議を開いた後、記者会見する考えを示した。民主党の前原誠司政調会長が「党内の7、8割が慎重だった」と伝えると、首相は「重く受け止める」と語ったという。
 民主党の経済連携プロジェクトチーム(PT)が9日に決定した政府への提言は、交渉参加に慎重意見が多かったことを踏まえ「慎重に判断すること」をするよう政府に求めている。民主党幹部は「慎重に判断するために1日置いた」と語り、交渉参加の方針は変わらないとの見方を示した。藤村修官房長官も記者会見で「(首相の方針に)変化は感じていない」と述べた。
 11日にはTPPに関する集中審議が衆参予算委で行われることから、首相官邸内には「集中審議の前に参加を決め審議に臨むべきだ」との意見があった。政府方針の決定を集中審議後に先送りしたことで、与野党の意見を聞いて判断する姿勢を示す狙いもある。ただ、みんなの党を除く全野党がAPECの際の参加表明に反対しており、あいまいな答弁を繰り返した後、記者会見で参加方針を表明すれば、野党から「国会審議軽視」の批判を受ける恐れもある。【野口武則、小山由宇】

《インタビュー》中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる


《インタビュー》中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる
TPP反対論を展開する中野剛志氏にインタビューを行いました。10月以降政府・大マスコミが「開国」論を展開する中、中野氏は「日本はすでに開国している」「TPPで輸出は増えない」「TPPは日米貿易だ」と持論を展開してきました。
TPPの問題点はもちろん、今までのメディアの動き、そしてインタビューの後半には、TPP議論の中で発見した新たな人々の動きについても触れていただきました。

*   *   *   *   *

中野剛志氏(京都大学大学院助教)
「TPPはトロイの木馬」


TPP問題はひとつのテストだと思います。冷戦崩壊から20年が経ち、世界情勢が変わりました。中国・ロシアが台頭し、領土問題などキナ臭くなっています。米国はリーマンショック以降、消費・輸入で世界経済をひっぱることができなくなり、輸出拡大戦略に転じています。世界不況でEUもガタがきていて、どの国も世界の需要をとりにいこうとしています。1929年以降の世界恐慌と同様に危機の時代になるとどの国も利己的になり、とりわけ先進国は世論の支持が必要なので雇用を守るために必死になります。

このような厳しい時代には、日本のような国にもいろいろな仕掛けが講じられるでしょう。その世界の動きの中で日本人が相手の戦略をどう読み、どう動けるかが重要になります。尖閣、北方領土、そしてTPPがきました。このTPP問題をどう議論するか、日本の戦略性が問われていたのですが、ロクに議論もせずあっという間に賛成で大勢が決してしまいました。

─TPPの問題点は

昨年10月1日の総理所信表明演説の前までTPPなんて誰も聞いたことがありませんでした。それにも関わらず政府が11月のAPECの成果にしようと約1ヶ月間の拙速に進めたことは、戦略性の観点だけでなく、民主主義の観点からも異常でした。その異常性にすら気づかず、朝日新聞から産経新聞、右から左まで一色に染まっていたことは非常に危険な状態です。
TPPの議論はメチャクチャです経団連会長は「TPPに参加しないと世界の孤児になる」と言っていますが、そもそも日本は本当に鎖国しているのでしょうか。

日本はWTO加盟国でAPECもあり、11の国や地域とFTAを結び、平均関税率は米国や欧州、もちろん韓国よりも低い部類に入ります。これでどうして世界の孤児になるのでしょうか。ではTPPに入る気がない韓国は世界の孤児なのでしょうか。

「保護されている」と言われる農産品はというと、農産品の関税率は鹿野道彦農水相の国会答弁によればEUよりも低いと言われています。計算方法は様々なので一概には言えませんが、突出して高いわけではありません。それどころか日本の食糧自給率の低さ、とりわけ穀物自給率がみじめなほど低いのは日本の農業市場がいかに開放されているかを示すものです。何をもって保護と言っているかわかりません。そんなことを言っていると、本当に「世界の孤児」扱いされます。

「TPPに入ってアジアの成長を取り込む」と言いますが、そこにアジアはほとんどありません。環太平洋というのはただの名前に過ぎません。仮に日本をTPP交渉参加国に入れてGDPのシェアを見てみると、米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%です。これは実質、日米の自由貿易協定(FTA)です。
ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール、チリの4加盟国+ベトナム、ペルー、豪州、マレーシア、米国の5参加表明国に日本を加えたGDPグラフ。日本と米国で9割以上を占める。(国連通貨基金(IMF)のHPより作成(2010年10月報告書))

─菅首相は10月当初、TPPをAPECの一つの成果とするべく横浜の地で「開国する」と叫びました



横浜で開国を宣言した菅首相はウィットに富んでいるなと思いました。横浜が幕末に開港したのは日米修好通商条約で、これは治外法権と関税自主権の放棄が記された不平等条約です。その後日本は苦難の道を歩み、日清戦争、日露戦争を戦ってようやく1911年に関税自主権を回復して一流国になりました。中国漁船の船長を解放したのは、日本の法律で外国人を裁けないという治外法権を指します。次にTPPで関税自主権を放棄するつもりであることを各国首脳の前で宣言したのです。

APECでは各国首脳の前で「世界の孤児になる」「鎖国している」と不当に自虐的に自国のイメージをおとしめました。各国は日本が閉鎖的な国だと思うか、思ったフリをするため、普通は自国の開かれたイメージを大切にするものです。開国すると言って得意になっているようですが、外交戦略の初歩も知らないのかなと。すでに戦略的に負けています。
世界中が飢餓状態にある今、世界最大の金融資産国である日本を鵜の目鷹の目で狙っています。太ったカモがネギを背負って環太平洋をまわっているわけで、椿三十郎の台詞にあるように「危なっかしくて見てらんねえ」状態です。

─TPPは実質、日米の自由貿易協定(FTA)とおっしゃいましたが、米国への輸出が拡大することは考えられませんか

残念ながら無理です。米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っています。米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、輸出をすることはあっても輸入を増やすつもりはありません。これは米国の陰謀でも何でもないのです。

オバマ大統領のいくつかの発言(※1)を紹介します。11月13日の横浜での演説で輸出倍増戦略を進めていることを説明した上で、「...それが今週アジアを訪れた大きな部分だ。この地域で輸出を増やすことに米国は大きな機会を見いだしている」と発言しています。この地域というのはアジアを指しており、TPPのGDPシェアで見れば日本を指しています。そして「国外に10億ドル輸出する度に、国内に5,000人の職が維持される」と、自国(米国)の雇用を守るためにアジア、実質的に日本に輸出するとおっしゃっています。

米国の失業率は10%近くあり、オバマ政権はレームタッグ状態です。だからオバマ大統領はどこに行っても米国の選挙民に向けて発言せざるを得ません。

巨額の貿易黒字がある国は輸出への不健全な異存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」とも言っています。巨額の貿易黒字がある国というのは、中国もですけど日本も指しています。そして「いかなる国も米国に輸出さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない」と続けています。TPPでの日本の輸出先は米国しかなく、米国の輸出先は日本しかない、米国は輸出は増やすけれど輸入はしたくないと言っています。

米国と日本の両国が関税を引き下げたら、自由貿易の結果、日本は米国への輸出を増やせるかもしれないというのは大間違いです。米国の主要品目の関税率はトラックは25%ですが、乗用車は2.5%、ベアリングが9%とトラック以外はそれほど高くありません。日米FTAと言ってもあまり魅力がありません。


<関税はただのフェイント 世界は通貨戦争>

米国は輸出倍増戦略をするためにドル安を志向しています。世界はグローバル化して企業は立地を自由に選べるので、輸入関税が邪魔であればその国に立地することもできます。現に日本の自動車メーカーは米国での新車販売台数の66%が現地生産で、8割の会社もあります。もはや関税は関係ありません。それに加えて米国は日本の国際競争力を減らしたり、日本企業の米国での現地生産を増やしたりする手段としてドル安を志向します。ドル安をやらないと輸出倍増戦略はできません。

日米間で関税を引き下げた後、ドル安に持って行くことで米国は日本企業にまったく雇用を奪われることがなくなります。他方、ドル安で競争力が増した米国の農産品が日本に襲いかかります。日本の農業は関税が嫌だからといって外国に立地はできず、一網打尽にされるでしょう。グローバルな世界で関税は自国を守る手段ではありません。通貨なんです。

─関税の考え方をかえる必要がありそうです

米国の関税は自国を守るためのディフェンスではなく、日本の農業関税という固いディフェンスを突破するためのフェイントです。彼らはフェイントなどの手段をとれるから日本をTPPに巻き込もうとしているということです。

─農業構造改革を進めれば自由化の影響を乗り越えられるという意見はどう思いますか

みなさんはTPPに入れば製造業は得して農業が損をすると思っているため、農業対策をすればTPPに入れると思うようになります。農業も効率性を上げればTPPに参加しても米国と競争して生き残れる、生き残れないのであれば企業努力が足りない、だから農業構造改革を進めよと言われます。

それは根本的に間違いだと思います。関税が100%撤廃されれば日本の農業は勝てません。関税の下駄がはずれ、米国の大規模生産的農業と戦わざるを得なくなったところでドル安が追い打ちをかけます。さらに米国は不景気でデフレしかかっており、賃金が下がっていて競争力が増しています。関税撤廃、大規模農業の効率性、ドル安、賃金下落という4つの要素を乗り越えられる農業構造改革が思いつく頭脳があるなら、関税があっても韓国に勝てる製造業を考えろと言いたいです。

自由貿易は常に良いものとは限りません。経済が効率化して安い製品が輸入されて消費者が利益を得ることは、全員が認めます。しかし安い製品が入ってきて物価が下がることは、デフレの状況においては不幸なことなのです。デフレというものは経済政策担当者にとって、経済運営上もっともかかってはいけない病だというのが戦後のコンセンサスです。物価が下がって困っている現状で、安い製品が輸入されてくるとデフレが加速します。安い製品が増えて物価が下落して影響を受けるのは農業だけではありません。デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられるというのがこのTPP、自由貿易の問題です。

農業構造改革を進めて効率性があがった日には、日本の農家も安い農産物を出荷してしまうことになり、さらにデフレが悪化します。デフレが問題だということを理解していれば、構造改革を進めればいいなんて議論は出てきません。

こういう議論をすると「農業はこのままでいいのか」ということを言い出す人がいます。しかし、デフレの時はデフレの脱却が先なのです。インフレ気味になり、食料の価格が上がるのは嫌なので農業構造改革をするということはアリだと思います。日本は10年以上もデフレです。デフレを脱却することが先に来なければ農業構造改革は手をつけられません。例えばタクシー業界が競争原理といって規制緩和の構造改革をしました。デフレなのに。その結果、供給過剰でタクシーでは暮らせない人が増えて悲惨なことになりました。今回は同じ事が起ころうとしています。

─TPP参加のメリットを少しだけ...

デメリットは山ほどありますが、メリットはないんです。

米国が輸出を伸ばし日本が輸入を増やして貿易不均衡を直すこと自体は、賛成です。ところが、関税を引き下げて輸入をすると物価が下がるので、日本はデフレが悪化します。経済が縮小するので、結局輸入は増えません。農産品が増えれば米国の農業はハッピーですが、トータルで輸入は増えません。

本当は日本がデフレを脱却して経済を成長させれば、日本の関税は低いんだから輸入が増えるんです。実際に米国はそれをしてほしかったのです。ガイトナー財務長官は昨年6月、日本に内需拡大してくれという書簡を送りました。ところが日本は財政危機が心配だと言って財政出動をしないので、内需拡大をしようとせずに輸出を拡大しようとするので、米国は待ち切れずにTPPに戦略を変えたのでしょう。米国は「とりあえずTPPを進めれば農業は儲かるからいいや」となったのでしょう。

デフレを脱却し、内需を拡大し、経済を成長させれば、関税を引き下げることなく輸入を増やすことができます。環太平洋やアジアの地域は、例えば韓国がGDPの5割以上、中国も3割以上が輸出に頼っており、シンガポールやマレーシアに至ってはGDPよりも輸出が多いです。つまり輸出依存度が高く、その輸出先となっていた米国が輸入したくないと言っているので環太平洋・アジアの国々は困っていることと思います。

今、東アジアが調子が良いのは、資金が流入してバブルになっているからで、本当はヤバイ状況です。環太平洋の国々は経済不況に陥った米国やEUに代わる輸出先を探しています。日本は世界第2位のGDPがあり、GDPにおける輸出の比率は2割以下という内需大国です。その日本が内需を拡大して不況を脱し、名目GDP3%程度の普通の経済成長をしたとすれば、環太平洋の国々は欧米で失った市場の代わりを日本に求めることができるので、本当の環太平洋経済連携ができます。これなら、どの国も不幸になりません。

─あえてTPPを推進する狙いをあげれば、TPP事態は損だとしても今後FTAやEPAなど二国間貿易を進めるきっかけにしたいということなのでしょうか

それも無理筋ですね。自由貿易を進めている国として韓国をあげ、日本はFTAで韓国に遅れをとっているという論調があります。しかしFTAは、一つ一つ戦略的に見ていくべきもので、数で勝ち負けを判断すべきではありません。韓国はGDPの5割以上が輸出で得ており、自由貿易を進めなければ生きていけません。韓国人はやる気があるとか、外を向いているとかいった精神論ではありません。しかし、自由貿易は格差を拡大するものであり、それが進んでしまったのが韓国なのです。

韓国がなぜ競争力があがったかのでしょうか。韓国はこの4年間で円に対するウォンの価値が約半分になっている。韓国の競争力が増したことはウォン安で十分説明できます。日本がTPPで関税を引き下げてもらったとしても、韓国のウォンが10%下がれば同じ事ですし、逆
にウォンが上がれば関税があっても十分戦えます。

グローバル化の世界は関税じゃなく通貨だということがここでも言えます。なんで全部農業にツケをまわすんだと言いたいです。とっちにしたって世界不況ですから海外でモノは売れませんよ。失業率が10%の米国で何を売るんですか。


─中野さんがおっしゃるような問題点が出されないままに大マスコミが一斉に推進論を展開し、有識者も賛成論がほとんどでした


外国から見ればこんなにカモにしやすい相手はいません。環太平洋パートナーシップ、自由貿易、世界平和など美しいフレーズをつければ日本人はイチコロなんです。
なぜこんなにTPPが盛り上がってしまうのでしょうか。TPPは安全保障のためだという人がいますが、根本的な間違いです。まずTPPは過激な自由貿易協定に過ぎません。軍事協定とは何の関係もありません。

米国はかつての黒船のように武力をちらつかせたり、TPPに入らなければ日米安全保障条約を破棄するなどと言ったりしていません。日米同盟には固有の軍事戦略上の意義があり、経済的な利益のために利用するためのものではありません。さすがに米国でもTPPで農産物の輸出を増やしたいので、その見返りに日本を命をかけて守れと自国の軍隊を説得できませんよ。TPPを蹴ったから日本の領土が危なくなるなんてことはありません。

それにも関わらず日本が勝手にそう思い込んでいるのです。尖閣や北方領土の問題を抱え、軍事力強化は嫌だなと思っているときにTPPが浮かび上がってきて、まさに「溺れる者は藁をもつかむ」ようにTPPにしがみつきました。でもこれにしがみついたって何の関係もないです。もし米国が日米同盟を重視していないのであれば、TPPに入ったって日本を守ってくれません。

その中で無理に理屈をつけようとするから、アジアの成長だの農業構造改革だのと後知恵でくっつけるからきわめて苦しくなるのです。TPP参加論は、単なる強迫観念です。

─推進派が根拠にしているのは経産省が算出したデータです(※2)。どこまで信用できるものなのでしょうか

経産省はTPPに入らなければ10兆円損をするというデータを発表しました。その計算方法は、日本がTPPに入らず、EU、中国とFTAを締結せず、韓国が米国、韓国、EUとFTAを結び発効した場合は10兆円の差が出るというものです。

なぜ中国とEUを入れているのでしょうか。おそらくTPPに加盟しても本当は経済効果がないことがわかったからでしょう。反対派の農水省と賛成派の経産省は数の大きさで争っているので、試算自体に水増しがあります。もっと言えば、なぜTPPとFTAが混ざった試算をするのかが疑問です。日本がTPPで韓国がFTAと試算していることを見れば、韓国がTPPに興味がないことを政府が知っていることがわかります。こんな不自然な試算を見ていると、TPP参加の理屈をつけるのはさぞかし大変だっただろうなと同情したくなります。

─理屈が通らずに「平成の開国」というフレーズに飛びついた

「黒船の外圧でも、幕末・明治は変にナショナリスティックにならなかったからうまくいき、戦後はGHQによって屈辱的に占領されたものの日米安保を結び平和になり経済が繁栄した」ということをみんなが思っているから、今回も「開国」と聞いた瞬間に飛びついたのではないでしょうか。それまでは尖閣の問題できわめて「攘夷」の雰囲気がありましたから「開国」のフレーズに心理が動いたのでしょう。

しっかりと考えて欲しいのは、幕末・明治の開国がそのイメージと違うことです。富国強兵をして戦争に進み、関税自主権の回復を目指した、つまり開国した後の日本は独立国家になるために戦い抜いた歴史があるんです。それ以前に開国したのは江戸幕府であり、外圧になすすべなく国を開いた幕府の方が倒されたんだよ、と。そこからしてもう歴史観が間違っているんです。

─TPPの議論は「思考の停止」が起きているように見えました

議論が複雑でやっかいかもしれませんが、せめてGDP比を見て「TPPは日米貿易に過ぎない」とか、米国が輸出拡大戦略をとろうとして輸入しないようにしているということぐらい知ってもらわないと、戦略を立てようがありません。推進派の人たちが国を開けとか、外を向けとか言っていますが、本当に外を向けば、TPPでは何のメリットもないことがわかるんです。そういう意味では推進派の頭の方が鎖国しています。


─日本史を教えている高校教師が「幕末・明治の開国を教えるときは、1911年・小村寿太郎をセットにして教えるほど関税自主権は基本的で大事なこと」と言いました。関税をゼロにするという話に飛びついた政府やマスコミは歴史に何を学んでいるのか疑いたくなります

幕末の開国はペリーが武力で迫ったものですが、今回はそんなことはありません。世界第2位のGDPがあり、何度も言っているようにすでに開国しています。なぜ自爆しようとするのでしょうか。こんな平成の開国の歴史を、僕らの子どもや孫にどうやって教えますか。雰囲気で決めるようなこの時代を、将来、歴史の教科書でどう教えるのですか。

─私は欧米に輸出している液晶モニターメーカーの営業経験がありますが、社員の関税に対するイメージが悪かった思い出があります。EUが関税を引き上げる度に域内の製品価格が上がり売上やマーケットに直結するため非常にセンシティブになります。関税に対するイメージの悪さが、関税撤廃を後押しする雰囲気につながっていることはありませんか

あるかもしれませんね。EUは関税が高いし、戦略的に関税をつかっていますし、そもそもEUはそのための関税同盟です。でも思いだして欲しいのは、TPPはEUと関係ないんです。日本はEUとFTAを進めたいけどフラれています。それはEUにとって得にならないからです。どの国もひとつひとつ損得を考えて進めているんです。

<迫り来る食糧危機と水不足>

─結局TPPで困る人は?
国民全体です。農業界だけじゃありません。あるいは日本でデフレが進行すれば日本が輸入しなくなり、世界全体も困ります。

心配なのは食料価格の上昇です。世界各国がお金をジャブジャブに供給していて、お金の使い道がないから金や原油の価格が上がっています。食料価格は豪州は洪水と干ばつなどの影響ですでに上昇しており、投機目的でお金が流れてくるとさらに上がることが予想されます。

─TPPの問題は家庭の食卓にも迫ってくるわけですね

1970年代の石油危機がありましたよね。石油の問題はみなさん心配されますが、石油よりも危険なのは食料です。中東の石油は生産量のほとんどを輸出用に回していて、外国に買ってもらわないと経済が成り立たないため、売る側の立場は意外と弱いものです。ところが穀物の場合は、輸出は国内供給のための調整弁でしかなく、不作になれば売らないと言われかねません。

穀物はまず国内を食わせて余剰分を輸出します。当然不作になれば輸出用を減らして国内へまわすものです。もともと農業は天候に左右されるため量と価格が変動しやすく、特に輸出用は調整弁なので変動が大きいのです。変動リスクが大きいから、穀物の国際先物市場が発達したのです。


日本のトウモロコシはほぼ100%米国に依存しているので、僕らは米国の調整弁になっているということです。不作になったら安く売ってもらえなくなります。そのトウモロコシの大生産地である中西部のコーンベルトで起こっていることが、レスター・ブラウン が警告する地下水位の下落です。水不足の問題です。

米国は水不足がわかっているから、ダムのかさ上げ工事を始めています。例えばサンディエゴ市に水を供給するダムは、将来の水不足に備えて市民の1年分の水が追加的に貯められるようになる計画が進められています。米国のフーバーダムひとつで、日本の約2,700のダムの合計貯水量を上回ります。ところが日本は「ダムはムダ」とか言っています。世界が水不足になる中で、日本の水源地はどんどん買われていると聞きます。本当におめでたい国です。

このようにして国は外からでなく内側から滅びるんです。カルタゴを始め、歴史上別に滅びなくてもいいような国がバカをやって滅んでいきました。日本もそういうサイクルに入ったということかもしれませんね。

欧州では「トロイの木馬」の教訓があります。それは「外国からの贈り物には気をつけよう」という言い伝えです。外国から贈り物を受け取るときはまず警戒するものですが、日本はTPPという関税障壁を崩すための「トロイの木馬」を嬉々として受け入れようとしているのです。

<TPP問題の側面にある世代抗争>

こんな状況が広がっている中で、TPP推進派が「日本には戦略が必要だ」と言いながら米国に依存しようとしています。

米国の庇護の下で経済的な豊かさだけを追って、何をしても成功し、ちょっとバカをしても大した損はしなかった世代の人々が90年代以降に企業や政府のトップになり、それ以降日本のGDPが伸びなくなりました。この世代の人たちが「日本の改革のためには外圧が必要だ」「閉塞感を突破するためには刺激が必要だ」という不用意な判断をするので、ものすごい被害を及ぼすことになるのです。

例えば日本は13年連続3万人の自殺者がいます。その前までは、日本は先進国の中でも自殺率が低い国として有名でした。バカなことをすると一気に転げ落ちてしまうんだという真剣さに欠けている人たちが、今の日本を牛耳っているんです。「最近の若者は元気がない」と言う人たちが元気だったのは、彼らが若いころはバブルだったからです。愛読書は「坂の上の雲」と「竜馬が行く」のこの世代は、「開国」と聞くと条件反射的に興奮するようです。

先日朝日新聞社から団塊の世代の方がインタビューに来た時に、彼らの世代の口癖を指摘しました。このままでは日本が危ないという話をすると必ず「そんなことでは日本は壊れない」という口癖です。しかし、日本はもうすでに壊れているんです。政界はもちろん、私も含めた官僚、財界そして知識人は、毎年3万人の自殺者の霊がとりついていると思うぐらいの責任感をもって、もっと真剣に国の行く末を考えないといけません。

私は1996年に社会人になり、以来、一度も名目GDPの成長を経験していません。私より下の世代はもっとひどい。この世代は「いい加減にしろ」という気持ちになっているのでしょうけど、へたっている上、少子高齢化で上の世代が多すぎて声が出ないんです。でも「最近の若者は元気がない」などと偉そうに言わせてる場合じゃないんです。

今回は地べたを耕している農家、ドブイタ選挙をやっている政治家、女性、この人たちの「危ない!」と思った直感を大切にしなければいけません。全体が賛成派の中で黙っていた人、発言の機会さえ与えられていない人、真剣に生きている人たちに声を上げてもらいたいと思います。(了)


※インタビューの内容は中野氏個人の見解です。

2011年1月14日《THE JOURNAL》編集部取材&撮影 

【関連資料・記事】
■(※1)オバマ大統領、TPP推進の決意を示す APEC最高経営者サミットで講演(AFP)
■(※2)EPAに関する各種試算(pdfファイル)(経産省HPより)
■TPP「開国」報道に"待った"の動き(NewsSpiral)
■続・世論調査の「TPP推進」は本当?地方議会の反対決議(NewsSpiral)
■TPP "見切り発車"は許されない(琉球新報社説 1.18)
■怪談!TPP環太平洋連携協定 TPPって何?(TOKYO MX)


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【プロフィール】 中野剛志(なかの・たけし)
1971年、神奈川県生まれ。京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)助教。
1996年、東京大学教養学部教養学科(国際関係論)を卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。2000年より3年間、 英エディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年、同大学院より優等修士号(Msc with distinction)取得。2003年、同大学院在学中に書いた論文がイギリス民族学会(ASEN) Nations and Nationalism Prizeを受賞。2005年、同大学院より博士号(社会科学)を取得。経済産業省産業構造課課長補佐等を経て現職。
著書に「考えるヒントで考える 」「成長なき時代の「国家」を構想する 」「自由貿易の罠 覚醒する保護主義 」「恐慌の黙示録―資本主義は生き残ることができるのか 」など。

2011年11月10日木曜日

経団連と官僚の主張にしか聞く耳を持たないのですか?

 「巧言令色鮮少なし仁」 低姿勢か何かしらないが、ドジョウ氏と彼を裏で操る権力者には民主主義の何たるかがさっぱり分かっていないようである。

自民党よりも官僚寄り、財界寄り、アメリカ寄りの現政権、それが多くの国民が求めた「変革」だったのだろうか。

ごく一部の富裕層とエリート官僚、年金を滞納していた主婦や、まともに農業に専念しない農家、働かない人たちに甘く、汗水たらして懸命に働く人間からは、ただ税金をむさぼるだけの政治。

働く人たちに何のインセンティブも与えない政治を助長する限り、働くことの意欲がどんどん殺がれ、学校を卒業しても、親に頼って働かない若者は、ますます急増することだろう。

多国間協定は、何の策もないまま、乗り遅れた船に飛び込むように拙速に乗り込むようなものではない。大国の思惑がどこにあるのか、それに対して日本はTPP参加によって、具体的にどんな利益を得るつもりなのか、その利益を確保するために、どんなストラテジーで交渉を進めていくのか、権謀術策の大国のアウトスポークンな外交家に対峙して、しっかり国益のためならば、どこまでも引き下がらず、場合によっては席を蹴っ立てて降りる決断ができるような交渉力のある人間は現政権のどこにいるのか。それらについて明快な答えが出ない限りは前にも書いたが飛んで火にいる夏の虫である。

これまでこの国の貿易協定の在り方について、無策のままで今日に至った経産省の責任者には退職金や給料の全額を国庫に返還しても余りある。

古賀茂明氏はTPPに賛成しているようである。彼のような国益のためにNOということを辞さない勇気ある官僚が経産省で、あるいは現政権のブレーンとしえt重用されているならば、TPPのテーブルについてもよいかもしれない。しかしそんな彼を異端視して追い出してしまうような霞が関や現政権に私たちは何を期待することができるだろうか。

ドジョウ氏の強行突破で、医療にも共済にも金融の分野にまでアメリカ企業が参入し、食品安全規制もアメリカン・スタンダードに変更することを余儀なくさせられ、ウォール街の失策の尻拭いのために、日本は超大国にぎりぎり攻めこまれ、食いつぶされて終わってしまうだけではないのか。

こんな民主主義の何たるかもおわかりになっていない危うい舵取りをする首相に対して、不信任案ひとつ突き付けられない国会議員とは何なのか?

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920014&sid=axZ6xiuStit8

野田首相:TPP交渉参加、きょうにも政治決断-党は慎重判断求める

はてなlivedoorYahoo!Newsing it!Buzzurl
  11月10日(ブルームバーグ):野田佳彦首相は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題について10日にも政治決断する。民主党の経済連携プロジェクトチームは9日、党内の反対意見が多いことなどを踏まえて慎重に判断するよう求める提言をまとめており、首相が参加表明に踏み切れば党内の反対派から反発を受けそうだ。
  提言は、交渉参加をめぐるこれまでの党PTでの議論について「時期尚早・表明すべきではない」と「表明すべき」の両論があったが、「前者の立場に立つ発言が多かった」と慎重・反対論が多数であったことを指摘。その上で、「政府には、以上のことを十分に踏まえた上で、慎重に判断することを提言する」と明記した。
  ただ、前原誠司政調会長は記者団に対し、「党としてはこの文章をそのまま首相に伝える。そして最終判断は首相が行う」と説明しており、野田首相の判断を縛るものではないとの認識を示した。
  党PTの提言を受け、野田首相は近く政府・民主党3役会議、包括的経済連携に関する閣僚委員会などを開き、TPP参加問題について決断。 12、13両日には米ハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する。
慎重に考える会
  TPP交渉参加問題をめぐっては民主党の山田正彦前農水相が会長を務める「TPPを慎重に考える会」のメンバーらがPTの会合などで、 国内農業などへの打撃を懸念する立場から反対の論陣を張ってきた。同会の原口一博元総務相はAPECでの参加表明に200人以上の与党議員が反対しているとして、「期限を切る意味は全くない。200人を超える与党議員がやめてくれというのを押し切ったら、重大な結果をもたらすと思う」と指摘していた。
  一方、連立を組む国民新党の亀井静香代表も8日、野田首相との会談で「前のめりに交渉参加というようなことはおやりにならない方がいい」と慎重な対応を求めている。
  内閣府によると、TPP参加によって関税が撤廃されることで日本の実質国内総生産(GDP)は2.7兆円、0.54%押し上げられるという。
  TPP交渉には米国、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナ ム、チリなどを含む9カ国が参加。高いレベルの貿易自由化を目指して 「物品市場アクセス」「金融サービス」など21分野24の作業部会を設置し、協議を進めている。米国商務省のクマール次官補は10月21日、 ブルームバーグ・ニュースのインタビューに応じ、TPPの参加国はAPEC首脳会議までに大枠で合意する予定で、交渉は1年以内に妥結することを米国は希望していると述べている。
9カ国
  仮に日本が参加を表明しても、9カ国の同意取り付けが必要となる。 外務省の資料によると、米国は政府が新規参加国との交渉開始の少なくとも90日前までに議会に交渉開始の意図を通知する制度になっているほか、 通知前に議会との調整・協議をする時間も必要になるという。外務省は米国をはじめとする参加国の同意取り付けに要する時間について「現段階で確固たることを予想することは困難である」と指摘している。
  菅直人前首相は1月4日の年頭会見で、6月ごろをめどに交渉参加の是非を判断する意向をいったん表明したが、3月11日の東日本大震災発生を受けて結論を先送りしていた。
記事についてのエディターへの問い合わせ先:東京 大久保 義人 Yoshito Okubookubo1@bloomberg.net香港  Peter Hirschbergphirschberg@bloomberg.net
更新日時: 2011/11/10 06:10 JST

2011年11月9日水曜日

NIMBY Problem : Fukushima Nuclear Crisis

 東京都の石原都知事は、率先して被災地のがれきの受け入れを率先して行い、英雄気取りで、野田氏をある種、無能と言い放ち、国民はダメになった、反対派は「黙れ」と斬り捨てた。

それに対して、中部大学の武田氏は専門的な立場からこれに猛然と反対し、WSJはこれをNIMBY Problem として描き出しているので、以下転載する。

NIMBY という点でいえば、石原氏は率先というならば、松濤の知事公舎や息子や孫、軍団の人々の自宅の敷地や議員宿舎の敷地内にまずそれを引き受けてから、発言してもらいたいものである。

フクシマ原発のクライシスさえなければ、どの自治体が、国民の誰ががれきの受け入れを拒んだろうか。自治体の首長が住民の健康や安全を最大限守るべき義務がある。

運びこむ前に5,6箇所で線量を計測したというが、今後50万トンものがれきが搬入される過程では、線量計測器の不具合も、計測ミスも当然あると考えるほうが妥当である。なぜならば、東電のようなこの分野のプロ集団の技術をもってしても、この7ヶ月間に何度計測ミスを重ねてきたかを思い起こせば、線量計測の難しさ、いい加減さは自明だからである。

原発立県の宮城や福島は原発の敷地内あるいはその周辺で処理すべきである。被災地の中で、唯一原発立県ではない岩手県のがれきは、隣県である青森の原発敷地内に運びこむか、高い運送料を支払うのであれば、佐賀、福井、新潟、島根などの原発立県、とりわけ何十年にもわたって、多大な交付金の恩恵に浴し、それと引換に原発受け入れを積極的に実施してきた、あるいは今なお、率先して再稼働を主張している自治体が引き受けるべきであり、がれきはそれぞれの原発のある敷地内あるいはその周辺に運びこみ、処理するのが、もっとも公正で理にかなったやり方であると考えるのは、薔薇っ子だけだろうか。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111105ddm041040064000c.html

東日本大震災:がれき受け入れ苦情「日本人、だめになった証拠だ」 石原都知事が批判

東日本大震災で発生した岩手県宮古市のがれき(災害廃棄物)を東京都が受け入れたことに抗議や苦情が相次いでいることについて、石原慎太郎都知事は4日の定例会見で「何もせずにどうするのか。力のあるところが手伝わなかったらしょうがない。みんな自分のことしか考えない。日本人がだめになった証拠の一つだ」と痛烈に批判した。
都によると、2日現在、「がれきを持ち込まないでほしい」などと苦情や抗議が2868件寄せられる一方で、賛成は199件。石原知事は「がれきから放射能が、出ているものを持ってくるのではない。(放射線量を)測って何でもないから持ってきている。東京だってばかじゃありませんよ」と話した。【武内亮】

石原都知事が野田首相バッサリ「ある意味無能」

2011.11.9 05:00
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東日本大震災で発生したがれきの広域処理に乗り出した東京都の石原慎太郎知事(79)は8日、「がれきの問題で、野田(佳彦首相)は何で出てこないんだ。自分の言葉で言ったらいい」と発言。放射性物質を含んだがれきと一般のがれきの違いを説明しない首相を批判した。
川崎市で開かれた首都圏の知事と政令市の市長による「9都県市首脳会議」の後に語った。同会議では、国にがれきの違いを明確にするよう求める提言を採択した。
また、石原氏は「ぶら下がり取材は生で話すから、親近感や信ぴょう性がある」とし、ぶら下がり取材に応じない首相について「結局、ある意味無能なんじゃないの。低姿勢か何か知らんが…」と語った。
「水飲み事件」と「黙れ!」事件・・・瓦礫に反撃
最近、ある政務官の「水飲み事件」がありました。政務官が「放射性物質が含まれている水」をテレビの前で飲んで「安全性をアピールした」と言うのです。

なにか、意味があるニュースなのでしょうか? 致死量の100分の1程度の放射性物質を含んだコップ一杯の水を飲んでも成人男子が健康を害することが無いのは誰でもわかりますし、今、問題になっているのは「わずかに汚染された水を飲み続ける子供の健康」の問題なのです。お母さんが心配しているのは政務官が直ちに倒れることではありません。

5歳の子供が10年後に15歳で病気になることを防ごうとしているのです。なんの役にも立たず、何のニュースでもないものが流れたという印象を持ちました。こんなことをするならやるべきことは多くあるのに残念です。
また倫理的にも糾弾しなければなりません。日本の法律ではみだりに被曝することを禁止しています。「直ちに」政務官の健康に影響がなくても法の精神に真っ向から反することをするというのは、国政に参加するものの最低の倫理にも悖るでしょう。

・・・・・・・・・

都知事が瓦礫を持ち込むことに反対している多くの都民に「(バカ!)黙れ!」と叫びました。()の中は私の補足ですが、もし都知事を選んだ都民がよく考えている人たちなら「黙れ」とは言わないでしょう。

都民が心配しているのは、福島原発から漏れた量は政府発表でも約80京ベクレル(万テラベクレル)で、その2倍、3倍というデータもあります。これを日本人一人あたりで割ると、一人あたり80億ベクレルになります。

人間が健康を維持する限度は1年1ミリで、かならず病気になるのが1年100ミリです。1キログラム100ベクレルの食品を1日で食べると1ミリシーベルトの被曝を受けますから、1年100みミリになるのは1万ベクレルの食品を食べることを意味しています。

つまり80億ベクレルというのは毎日、必ず病気になる1年100ミリなる食事を80万日食べることを意味しています。

人間の一生は3万日ですから、福島から漏れた放射性物質が瓦礫などによって日本中に飛散した場合、そのうち食材や空間線量として私たちを襲ってきますが、それは耐えられる量ではないのです。

そこで、都民は知事に「瓦礫を受け入れるというのは、その瓦礫が東京の汚染より高いか低いかではなく、最終的に東京に住んでいる人が外部被曝、内部被曝、食材被曝などでどのぐらいまで引き受けるのか、その計画を示せ」と言っているのです。

都民に「黙れ」というなら、知事が「黙らずに説明」をしなければなりません。一回の瓦礫がどんなに少なくても、東京はもともと汚染されていますし、葛飾の方は1年1ミリを守るのも難しい状態です。都知事は法律(1年1ミリ)を守らない違反者なのか、遵法精神なのか、国が法律に違反したらそれに唯々諾々として従うのか、知事の意思さえ示していません。

・・・・・・・・・

政治家がまともになるには、選挙もありますが、日常的に政治家の行動をチェックすることです。でも、私は知事の発言を聞いていると、到底、民主主義を支持している人には見えず、都民がなぜ今の知事を選出したのか、分かりにくいところもあります。

(平成23116日)





Nuclear Cleanup Faces ‘NIMBY’ Challenge


In handling the Fukushima Daiichi nuclear crisis, Japan has gotten help from American scientists and imported American robots. Now comes a popular American phrase: NIMBY.

Bloomberg News
An excavator removes radiated soil during a decontamination process at a park in Koriyama, Fukushima prefecture on Oct. 17.
“Of course, this is tough,” Hideki Minamikawa, vice minister of the environment ministry, told JRT in an interview, explaining where to store all the contaminated waste after the disaster after the March 11 earthquake and tsunami. “The natural response is NIMBY – not in my back yard.”
“NIMBY” was an oft-used phrase during the big International Symposium on Decontamination in Fukushima city in October. Nuclear experts from around the world urged Japan to take extra care to explain their efforts to local residents, because the knee-jerk reaction is “NIMBY,” they warned.
Japan is trying to get around the NIMBY problem by planning to move the contaminated waste from one place to another. The government has asked each municipality to store its own contaminated waste for now until it comes up with an “interim” storage facility. In the meantime, it will debate the more sensitive issue of where to store the waste permanently.
Over the weekend, the government came up with a roadmap saying it will determine in the next year and a half where the “interim” storage facilities will be, and start transferring the waste to these facilities by the beginning of 2015. But loud voices saying “NIMBY” are expected.
Some cities in Fukushima are devising their own cleanup plans, and are already tackling the “NIMBY” challenge. Back in the spring, the city of Koriyama, nearly 40 miles away from the stricken Fukushima Daiichi nuclear plant, scraped soil off the grounds of some schools, successfully reducing the level of radiation there. The city initially planned to truckloads of the contaminated soil to a landfill in another part of the city – until local residents cried “NIMBY!”
“That was a big surprise. People around here knew nothing about it,” says Akiko Murata, a 50-year-old farmer in Koriyama, tending to her rice paddy on a recent Sunday. “I thought, ‘You’ve got to be kidding.’” The landfill is a couple of kilometers away from her paddy.
Ms. Murata says she attended a town-hall meeting to oppose the move. The city changed plans and asked each school to bury its own tainted soil underneath the school grounds. Koriyama city officials concede they may not have done enough to explain its plans to the local residents near the landfill.
“They said they’re worried about the schools in the center of the city, but we have schools near here, too,” says Ms. Murata, who has three children of her own. “If you ask me where they should put the waste, I have no answer,” she says.


2011年11月8日火曜日

何も期待しない。。

政府の「第3者」委員会の欺瞞を、最も的確にまとめているものがあったので、以下に転載する。

この記事の最後に 「野田佳彦首相、今こそ決断のときである」という一文があったけれども、あえ

て転載しなかった。就任以来1ヶ月、国民が彼に期待するものは何もないことが、すでに白日のもと

にさらされているからである。恐らく筆者の町田氏も今は最後の1行を記したことに後悔の念をいだ

いているのではあるまいか。


現代ニュース

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/22472

ニュースの深層         2011年10月11日  町田徹


「原発再稼動なら大丈夫」という杜撰シミュレーションで破綻リスクを隠し、国民負担を強要する「東電第3者委報告」の国家的詐欺

待ち受ける雪だるま式の電力料金値上げ


治癒する見込みがないことを隠して、破産を招きかねない治療費のアリ地獄に患者を落とし入れる――。
東京電力による福島原発事故の賠償を支援するため、その経営実態の調査を担当した政府の第3者委員会が先週(3日)公表した「報告」は、そんなとんでもない内容だ。
問題点をあげると、報告は、賠償金額を過小に見積もった。負担しなければならない膨大な除染コストをカウントせずに、東電が深刻な破たんの危機(債務超過リスク)に瀕している事実の隠ぺいを試みた。
東電には、甘い蜜のような報告だ。自助努力の根幹になるはずの発電所売却を検討した形跡もなく、端から免除してしまった。
そして、ツケを払わされるのは、我々国民だ。今すぐ手を打たないと、公的支援を返済できないという屁理屈を列挙して、安全性への疑問が残る原発の早期運転再開と10%の電気料金引き上げという痛みの甘受を迫る内容となっている。まるで「国家的な詐欺」である。
野田佳彦首相は、手遅れにならないうちに、こんな東電支援のスキームを白紙に戻し、当事者の東電に一元的に責を負わせる本来の原則に立ち戻るべきだ。さもないと、日本経済全体が東電擁護の重荷に押し潰されかねない。
本コラムが過去2週にわたって警鐘を鳴らしてきた、この報告をとりまとめた政府の第3者委員会は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」(委員長・下河辺和彦弁護士)という。
政府は、その使命を、福島原発の賠償の公的支援に当たって「国民負担の極小化を図る」ことにあり、「東京電力の厳正な資産評価と徹底した経費の見直し」を行わせると説明してきた。
だが、羊頭狗肉も甚だしい。
9月末という取りまとめ期限を守れず、先週になってようやく公表された報告は、物理的な量ばかりが膨大で、その内容は「国民負担の極小化」という設置目的と対極の作文に変質した。
  もちろん、部分的に見れば、新聞各紙が喧伝したように、「届出時と実績の料金原価の乖離を合計すると、直近10 年間の累計で6,186 億円となる」(報告127ページ)とか、「東電の退職金水準(従業員拠出分を含まない)は依然、他産業と比較して高い」(同50ページ)として3つの改善案を示すなど、丹念な調査ぶりを感じさせる記述は存在する。
しかし、それらは、あまりにもマニアックなだけでなく、230ページの膨大な報告のごく一部に過ぎない。当局のレクを鵜呑みにして記事を書く新聞記者を念頭に、第3者委員会の奮闘ぶりを印象付けて、報告全体の杜撰さを覆い隠すために盛り込まれた目くらましとしか思えない。

10%の値上げは避けられないというシミュレーション

中でも根本的なミスリードは、報告が結論として打ち出した今後10年間の東電の事業・資金収支のシミュレーションだ。
もっともらしく、原発の運転再開を、(Ⅰ)直ちにできる、(Ⅱ)1 年後にずれ込む、(Ⅲ)再稼動できない――の3つのケースに分類。それぞれについて、料金を、①値上げなし、②5%値上げ、③10%値上げ――の3 パターン設定して、東電の将来像を描いている。
結論は、「(原発さえ早期に稼働すれば、)①料金改定(値上げ)なし、②5%値上げ、③10%値上げ、のいずれのパターンにおいても、実態純資産調整項目考慮前の段階で資産超過が維持できると試算されたが、原子力発電所の稼動時期が遅れるとともに、徐々に純資産が減少するリスクが拡大する」(報告105ページ)というもの。要するに、国際資本市場の抱く東電破たん懸念を拭い去ろうと、原発さえ再稼働すれば大丈夫という太鼓判を押したのである。
とはいえ、決して、それだけで賠償金の支払いや公的資金の返済をまっとうできるとしているわけではない。というのは、「資金面では原子力発電所稼働ケース、1 年後原子力発電所稼働ケースともに、料金値上げの状況に応じて約7,900 億円から約4 兆3,000 億円の不足資金が発生する」(同)、「原子力発電所非稼働ケースにおいては、約4 兆2,000 億円から約8 兆6,000 億円の資金調達が必要との結果」(同)などとの文言を挿入することも忘れていないからである。
この文言は、かねて東電が目論んでいるとされていた、10%の値上げが避けられないという援護射撃に他ならない。われわれ国民にとっては、福島原発事故の賠償を円滑に進めたうえで公的資金(最終的には税金)の返済を履行させるために、安全性に疑問が残る原発の早期再稼働を受け入れるだけでは不十分であり、電気料金の10%引き上げまで呑めという理不尽な話なのである。
はっきり言うが、国民が2つの重荷を受け入れても、このシナリオを実現するのは難しい。むしろ、せいぜい2年ぐらいで立ち行かなくなる「絵に描いた餅」に過ぎない、と筆者は睨んでいる。早晩行き詰まって、何度も電力料金を引き上げられるアリ地獄に国民は追いやられかねない。
その理由の第一は、第3者委員会が、必要な賠償額を過小に見積もっている点にある。同委員は、主に福島第1原発事故で避難している住民や福島市内の営業被害への補償だけを対象としただけで、他の多くの賠償義務の存在を無視するどんぶり勘定をやったのだ。
例えば、報告は、「政府による航行危険区域等又は飛行禁止区域の設定に起因して、漁業者、内航海運業又は旅客船事業を営んでいる者又は航空運送事業者に何らかの減収や追加的費用が発生していることが確認されている」(報告92ページ)としながら、その見積もりとなると「損害額を推計するための適切な資料は見当たらない。したがって、現時点で営業損害額について合理的な損害額を推計することは不可能である」と算定しなかった。

除染コストの算定責任を放棄

何よりもひどいのは、除染コストの扱いだろう。国や自治体が作業し、東電が費用を負担することが8月末に可決した「放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」に明記されている、一般地域の除染について「上下水道業者に何らかの減収や追加的費用が発生していること、私立学校に校地等の除染に関する何らかの費用が発生していることが確認されている。
しかし、具体的な損害額までは確認することができず、その他、損害額を推計するための適切な資料は見当たらない。したがって、現時点で営業損害額について合理的な損害額を推計することは不可能である」(報告93ページ)と算定責任を放棄しているのだ。
これらの除染は、どの程度完璧を期すかによってコストが大きく変動するとされているが、その規模は4~5兆円では大幅に不足で、総費用を10兆円程度に収めるために広い区域の除染を断念する政治決断が必要になるとの見方が少なくない。
さらに言えば、報告は賠償総額を4兆5402億円と見積もったが、これについても「少なく見積もっても20兆円は下らない」(民間シンクタンクのエコノミスト)というのが専門家の大勢である。
そして、もっと首をかしげざるを得ないのは、賠償総額4兆5402億円という第3者委の見積もりが、当初2年分の見積もりに過ぎないことだ。報告は、「知り得た事実関係及び入手可能な統計データを前提とした試算結果は、一過性の損害分として約2兆6,184億円、年度毎に発生しうる損害分として初年度(平成23年3月11日~平成24年3月末日)分約1兆246億円、2年目以降単年度分(筆者注:3年目以降の見積もりも行われたような印象を与える表現だが、「2年目の分」だけを指している)として約8,972億円となった」(報告90ページ)として、3年目以降の見積もりをしていないのである。

なぜ非論理的な見積もりを出したのか

そこで、問題になってくるのが、前述の原発再開と10%値上げが必要な根拠となった、今後10年間の東電の経営見通しだ。たった2年分の賠償や交付金支払いしか見積もらないでおき、それを10年かけて支払う(返済する)という計算なのだ。3年目以降は賠償が不要になると考えられる根拠など何もない。それらが発生した途端に、報告が描いたシナリオは破たんする構造になっているのである。
第3者委員会は、いったい、なぜ、このような非論理的な過小見積もりを断行したのだろうか。関係者に取材したところ、影を落とす問題が2つ存在した。
第一の問題は、8月3日に成立した特別法を根拠に設置された、東電による賠償を支援する公的機関「原子力損害賠償機構」の資金力の問題だ。実は、現在のところ、同機構が交付国債という特殊な手段を使って、東電に行える支援は総額2兆円まで。今年度の第3次補正予算で追加する予定の枠を加えても5兆円にしかならない。それゆえ、今回の報告は、賠償額の見積もりを5兆円以内に抑える必要があり、杜撰な過小見積もりを断行したという。
第二は、第一とも密接に関係するが、東電の債務超過・経営破たんリスクが顕在化するのを防ぎたいという思惑だ。それでなくとも、国際資本市場には、東日本大震災の被災を受けて、東電が実質的に破たんしていると見る向きが少なくない。そこで、今年6月発表した昨年度の本決算に続いて、近く公表する予定の今年度の中間決算でも、監査法人が東電に破たん宣告をしなくて済むような体裁を保とうとしたというのである
こうした中で目立つのは、報告の電力業界と東電への蜜のような甘い姿勢だ。第三者委員会自身も、「東京電力に関する経営・財務調査委員会報告の概要」の中に、あえて「積み残された課題(例)」と題する一枚紙を挿入し、
○政府と電力事業体との関係の見直し、
○総括原価方式に代表される電力事業に係る
各種制度・政策の再検討、
○地域独占を前提とした電力事業構造のあり

○発送電分離の検討
○原子力事業の運営主体やリスク負担の見直

○原子力発電のバックエンド費用
○天然ガス等のより効率的な調達の仕組み

――の七項目を列挙して、歴史的な日本の電力政策の枠組みに何ら切り込まなかった事実を認めている。
そうした底流として、報告は、冒頭の「はじめに」の中で「私たちは、いたずらに問題を複雑化し、拡大させることには慎重でなければならない。それというのも、その被害の直撃を受けた福島に暮らす人びとに対する十全な賠償と発生した事故の着実な処理を通じて、そこに『安心と安全』の確保をもたらすことを何よりも優先させるべきだとの思いがあるからである」と述べて、電力擁護姿勢の正当化まで試みているほどだ。

第三者委員会が容認した電力料金の値上げ

しかし、報告が東電の発電所売却の必要性にひと言も言及しなかった問題は、「着実な処遇」などという言い訳の通用する問題ではない。
というのは、発電所の売却は、電力政策の大枠の変更を必要とするような話ではないからだ。単に、賠償のための自己資金を積み増す効果があるだけでなく、すでに自由化されている発電業の競争を促す効果も期待されており、電気料金の高騰を抑制するものとみられている。
そもそも、民間企業が非効率な部門をアウトソースして、外部から必要な機能や製品を調達するのは、よくあることだ。発電所の売却は、規制による発送電業の強制的な分離議論とは次元の違う、すぐできる経営合理化策のひとつなのである。
第3者委が、重箱の隅をつつくような東電の人件費の削減策などに躍起になる一方で、より抜本的な資金調達の自助努力策として期待される発電所の売却にひと言も言及しなかったことは、大変な怠慢と言わざるを得ないだろう。もし、東電擁護のために、確信犯として発電所売却に触れなかったのならば、日本国民共通の敵の所業と断じてよいはずだ
同様に、今回の報告が、過去10年間の電気料金算出にあたって、コストの見積もりと実態の間に6,186 億円ものかい離があったことを指摘しながら、これらを将来無駄を省けることの根拠としだけで取り過ぎた料金の返済問題や、当時の経営責任、監督責任の追及などに言及しなかったことも、第3者委員会が東電寄りの組織だった証左と取られかねない失態だ。
半面、報告は、そのツケを国民に回すことに全くと言っていいほど躊躇をみせていない。これといった留保もなく、安全性への疑問が残る原発の早期運転再開と、電力料金の10%値上げを受け入れるように迫っているからだ。
値上げと言えば、東日本大震災以降、全国の電力会社は、すでになし崩し的に電気料金の値上げを続けている。加えて、東電は今年度中に、他の電力各社も来年度から、原発の運転停止に伴う火力発電所の燃料費増大分として10%程度の値上げを検討中だ。さらに、ソフトバンクの孫正義社長らが声高に要求した、太陽光を使って発電した電気の全量買い取りに伴う数パーセント前後の値上げも加わる予定となっている。
今回、第3者委員会報告が容認姿勢を打ち出した値上げは、こうした値上げラッシュの第一弾に過ぎず、2年後に賠償支援の不足が露呈すれば、その後は泥沼の値上げが待っている。

待ち受ける雪だるま式の電力料金値上げ

ここでいかにもありそうな政治決着と言えば、菅直人前政権が法律改正まで行って設置した原子力損害賠償支援機構の運用をとりあえずスタートさせるため、東電に今年度中の値上げを断念させる、という落とし所だ。
 しかし、こうした先送りは、雪だるま式に電気料金の高騰を招き、国民負担の増大を招く愚策に他ならない。ここは踏みとどまって、財務省、経済産業省、金融庁、東電、大手銀行の5者が相互に責任や負担を回避して、そのツケを国民に回そうとした仕組みに他ならない、機構による支援の枠組みをすべて白紙に戻すべきである。
 そのうえで、原子力損害賠償法に規定され、東海村のJCOの臨界事故という前例の際にも再確認されていた本来のルールに則り、当事者の東電が一元的に補償を行うという原発事故の賠償の原則に立ち戻るべきである。東電は、補償責任を全うするため、資産のすべてを換金して賠償原資に充てるのが筋である
過去に、あれだけ高い料金を取って溜め込んだ資産を充当しても足りなければ、資本主義のルールに則って、東電は法的整理のまな板に乗る以外に道は無いはずだ。
そうすれば、銀行の貸し手責任と株主責任が問われることになり、賠償原資のさらなる上乗せも可能なはずである。
その際、電力の安定供給を守るため、送電網の運用会社だけは、信頼できる企業体への事業継承が必要だ。それに相応しい企業が現れなかったら、初めて国費投入を検討すればよい。
東電の消滅によって一義的な賠償主体は消滅するが、どうしても支援が必要な弱者には社会福祉の観点から国が救済の手を差し伸べることによって国家的な試練を乗り超えるしか手はないはずである。








2011年11月6日日曜日

飛んで火に入る夏の虫:Noと言えない人たちにTPP交渉なんか無理では?

 内弁慶の外地蔵とは日本の霞が関官僚に最もふさわしい言葉かもしれない。
国民に対してはあれこれ偉そうなへりくつを延べ立てているけれども、特にアメリカに高圧的な態度で詰め寄られると、へらへら笑って相手のいいなりになるしかすべがない。

「そんなことは断じてない」と否定するのであれば、普天間の問題にしろ、何にしろ日本の官僚が国益を守るために、日米間の交渉の瀬戸際で一体いままで、どのような場面で、どんなふうに相手を説得し、譲歩させたことが、過去5年間の間に実績として、何度あったかをきちんと挙げて国民の前に示してもらいたいものである。

大臣にいたっては、国民が納得もしていない、国内の議論が何も十分にできてない重要懸案について、海外に出かけて行っては、私見を独断専行で国際公約としてぶち上げ、それを既成事実に変えて、嬉々として喜んでいるという体たらくである。

日本政府の中枢にいる人たちは、国益などよりも、外交の場で自分の顔をつぶされたくない、対面を守りたいの一念しかないようにしか見えないのは不幸なことである。すでにTPPについては、ブログに書いたので改めて繰り返すつもりはないが、こんな人たちがTPPの事前交渉などに入っていってまともな議論ができるはずがない。

TPPの交渉に入るか入らないかについて、幕末の鎖国か開国かの瀬戸際という荒唐無稽な発言をする人もあるようだが、日本はFTAで着々といろんな国々と貿易交渉を結んでいる。にもかかわらず、乗り遅れのバスに乗るような調子でTPPに飛び込めば、飛んで火に入る夏の虫になることは自明である。

TPPは恐ろしい。相手国の企業にとって、障害になるような安全基準を国が定めていたりするときは、企業が訴訟を起こせる権利が発生する。日本はそんな事態になったときに、我が国は一体どんな対応できるのか。結局アメリカとFTAを締結した韓国やメキシコと同様、何もかもずるずるとアメリカン・スタンダードに塗り替えられ、抜き差しならない事態に陥るのがおちである。

個人的にオバマはアメリカの国益を守るために彼は彼なりに粉骨砕身努力しているし、日本の政治家たちには、爪のあかでも煎じて飲んでもらいたい、信念の人だとは思う。しかし、日本の医療や労働、共済や金融などの部門における国益を犠牲にしてまで、彼の再選を支持しなければならない必要性があるとは到底思えない。仮に日本がTPPに参加したからといって、オバマが次の選挙で再選されるとは限らないからである。

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00210953.html

G20閉幕 野田首相が帰国の途に 「緊張感の持ったいい議論ができた」


フランスのカンヌで開かれたG20(主要20カ国・地域)首脳会議は4日、ギリシャの包括支援策の速やかな実行を求める首脳宣言を採択して閉幕した。
G20首脳会議を終えて、野田首相は日本時間の5日未明、帰国の途に就いた。
野田首相は、今後めじろ押しの外交日程のスタートとなった今回の首脳会議を終え、「大変、緊張感の持った、いい議論ができたというふうに思っております」と述べた。
野田首相は、ヨーロッパの金融危機について、条件付きで協力する意向を強調したほか、消費税増税を国際公約して、日本の財政再建に向けた姿勢を訴えたが、各国の関心はギリシャ情勢に集中し、その存在感を示せたとは言い難い状況。
為替介入への理解を求めた場面では、野田首相が「どこからも反応がなかった」と苦笑いするくらい各国の関心は薄く、2国間の会談も短時間で慌ただしく、中国の胡錦涛国家主席とは、わずか5分間の立ち話だった。

国内では低姿勢が評価を得る野田首相だが、国際社会では、それがそのまま発信力不足につながっている感は否めない。
ただ、帰国後は、3次補正審議やTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加問題で、野党側や民主党内の協力を得るため、引き続き低姿勢の日々が続くことになるとみられる。




http://mainichi.jp/select/biz/news/20111105ddm008020009000c.html

G20サミット:野田首相が国際公約 財政健全化、強い決意 消費増税、壁高く


野田佳彦首相は3日、主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、消費税率を2010年代半ばまでに段階的に10%に引き上げることを国際的に約束し、「カンヌ行動計画」にも盛り込まれた。与野党の反発が強い消費増税をあえて各国首脳に示すことで、財政健全化への強い決意を示した形だ。ただ、増税の実現にはハードルが多く、日本の財政への信認を得るには、政府が実行力を示す必要がある。【坂井隆之】
首相はG20出発前に藤井裕久・民主党税制調査会長と会談し、消費税増税を盛り込んだ税と社会保障の一体改革法案の年内取りまとめに道筋をつける方針を確認、藤井氏は「党の方は心配するな」と請け負った。だが、消費増税への党内の反発は依然として強い。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加問題でしこりが残れば、増税時期や幅などを巡る議論で党内対立が再燃する可能性がある。
 参院で多数を占める野党の協力を得るのも容易ではない。首相の「国際公約」を受け、自民党の谷垣禎一総裁は4日、「政権を取った衆院選マニフェストは、消費税は増やさない前提だった」と批判した。公明党の山口那津男代表も「意思決定前に信を問うのが筋だ」と述べ、増税の関連法案提出前の衆院解散を求めることで自公の意見がそろった。東日本大震災の復興増税法案でも、増税期間を巡る与野党協議は難航しており、来年の通常国会での消費増税の議論では、野党がさらに対決姿勢を強めるのは確実だ。

2011年11月5日土曜日

なぜブログを更新するのか?: それは日本のメディアが使命を果たさないから

3月以来更新してきたブログの件数が200にもなった。

震災の数日前にブログを始めたときには、社会問題をブログで扱うつもりはさらさらなかったし、月に1,2度でも、眠れぬ夜の手すさびに、趣味の話でも書き広げていけばいいと思っていた。

なのに、こんなことになってしまったのはなぜか。それは日本のメディアがきちんと報道をしないからという一語に尽きる。

もちろん、朝日新聞や報道ステーションもいくらかは取り上げているし、モーニングバードや朝ズバなどのワイドショーも多局と比較すれば、まだましで、健闘している方ではある。しかしいずれも、単なる申し訳程度のガス抜きが行われているにすぎない。

3月11日以来の、我が国がおかれている状況を鑑みれば、原発作業員の作業状況や、フクシマでの放射能汚染対策の現状、エネルギー問題や、放射能汚染対策問題、これまで電力会社・政府・メディア・御用学者が何をやってきたのかをさまざまな観点から究明するようなドキュメンタリー番組、世界の放射能防御学や原子力発電、エネルギー問題のスペシャリストを日本に招き、フクシマの現状についての専門的な見解に基づく講演、シンポジウムを主催し、それを報道し、様々な観点から議論するといった報道番組などが1日に何時間も組まれているのが当然ではないか。

たとえば元スポーツ選手だの、お天気予報士といったズブの素人がコメンテーターとなり、専門的な事象にピントの外れたコメントを述べ立ててそれでなんとなく終わるようなものではなく、小出裕章氏や今中哲二氏が、毎日まじめな番組に長時間出演し、そこで直面する問題に対してしっかりとした議論をしたり、専門的な知見に基づいた解説をしたりしてこそ、日本の今の現状に相応しいメディア番組の真の姿であると考えるのは薔薇っ子だけだろうか。

バカ笑いするしか芸のないタレントに高い出演料を払って製作される低俗なテレビ番組には若年層でさえもすでに愛想つかしを始めているし、政府の後押ししかしない、買わなくても内容が手に取るようにわかる新聞を、このネット社会において、この先誰がことさら定期購読するだろうか。

メディア関係者はそろそろ正念場に来ていることを自覚し、国民が信頼するような情報提供者になるためには、国民のオピニオンリーダーとしての役割を果たすためには何をなすべきか、根本的に従来のやり方を変えなければならない時期に差し迫っていることを自覚すべきである。

http://president.jp.reuters.com/article/2011/11/03/9A78C448-0525-11E1-8D48-2CDA3E99CD51.php

脱原発運動は、単なる“ガス抜き”に終わるのか

NEWS FILE

「推進力の源」が白日の下に晒されなければ、国民の脱原発運動も単なる“ガス抜き”で終わってしまう。
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野田政権の誕生で、中央官庁の官僚が再び政治をリードし始めた。安住淳財務大臣は野田佳彦首相の陰で糸を引く財務省の力に抑え込まれて萎縮。防衛事務次官も政治家を飛び越えて沖縄に出向くなど、水面下で日米合意の実現に外務・防衛の両省が猛烈な攻勢を仕掛けている。
公務員制度改革の旗手として知られた霞が関の改革派官僚・古賀茂明氏も、二転三転した末、遂に経産省に辞表を提出した。原発を中心とするエネルギー政策は、経産省にとって“獅子身中の虫”だった同氏の辞任と前後して一気に息を吹き返したようだ。事実、この間に原発は北海道で再稼働し、山口県・上関町長選では原発推進派の現職町長が勝利した。経産省と東電は大新聞やテレビを通じて、「原発に代わる火力が電気料金の大幅値上げを招く」と国民を恫喝し続けている。
肝心の野田首相は、所信表明で国民に「脱原発」を約束したにもかかわらず、国連では「原発輸出政策の継続」を表明した。首相の脱原発方針には、「任期中に達成する具体的な廃炉スケジュールと目標数」がない。そのため、国民には「どうも本気とは思えない」と疑問視する声が多い。具体的な計画を伴わない脱原発は、「おためごかしの政策ビジョン」とみられても仕方あるまい。
この9月末現在、稼働中の商業用原発は54基中11基。電気事業法では、13カ月ごとに原子炉を停止させて定期検査を行うことが義務づけられているため、予定としては2012年5月までにすべての商業用原発が停止されなければならない。
だが、見通しはそう甘くはない。東電管内の9都県で2002年3月末に1万3000戸だったオール電化戸数は、08年3月末で45万6000戸、10年末には85万5000戸に急増している。
野田政権が本気で脱原発を進める気があれば、国内のオール電化に政策的な歯止めをかけつつ、稼働中の原発11基を「脱原発の初期値」として位置づけ、そこから10、9……2、1、0へと減らしていく具体的な計画提示が必要だ。目標値も提示せず、遠い将来に結果を持ち越す「脱原発」とは、つまり「原発維持」でしかないからである。
とはいえ、在野の専門家らによる放射線拡散調査の広がりと、それを支持する国民の強い意思表示は、とりあえず非開示情報の扉をこじ開けつつある。

超巨大産業“原発”を誰が推進しているのか

原子力委員会は9月27日、事故以降に国民から寄せられた4500件の原発に関する意見で、「脱原発」を求める声が98%(直ちに廃止67%+段階的に廃止31%)に達したことを公表した。その2日後、文科省も福島第一原発から200キロ以上離れた埼玉、千葉などで3万~6万ベクレルのセシウムが沈着していたことを発表している。東京・神奈川・新潟の数値はまだ発表されていない(10月2日現在)が、福島県内の双葉町・浪江町・飯舘村など原発敷地外で、土壌からプルトニウム238が検出されたことも報告された。
チェルノブイリ原発事故では、「3万7000ベクレル以上が汚染区域」とされ、「妊婦や子どもの移住が必要な限界管理区域は55万ベクレル以上」とされた。マスコミによる誘導とは一線を画した世論の勢いに押されて、今回の原発事故による環境汚染がこれに相当するレベルで広範囲に広がっていることを、日本政府もやっと認めたということだ。
9月に都内で約6万人(主催者発表)を集めた“脱原発”デモ。「原子力ムラ」住民に痛痒を与えることはできたのか。(ロイター/AFLO=写真)
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9月に都内で約6万人(主催者発表)を集めた“脱原発”デモ。「原子力ムラ」住民に痛痒を与えることはできたのか。(ロイター/AFLO=写真)
ところが、同時期に開かれた政府の原子力災害対策本部では、福島原発周辺の半径20~30キロ圏内を線引きした「緊急時避難準備区域」(4月指定)の解除を決めている。そのため、自治体や避難中の町民には、「帰れるのか帰れないのかさっぱりわからない」「除染はもう終わったのか?」「順序が滅茶苦茶」「危険だけど帰れと言われているような気分」といった不満や不安が渦巻いている。除染作業は今、始まったばかりだからだ。
実際、放射性物質の拡散・沈着も依然として続いている。10月2日午後21時現在の双葉町山田の放射線量は「毎時24.72マイクロシーベルト」。この付近の平常値である毎時0.071マイクロシーベルトを、実に350倍近くも上回る驚異的な数値だ。
安全論議を放置したまま再稼働の勢いが強まる原発問題は、抑止力論議を封印したまま新基地建設を強要される在沖米軍問題と似ている。それは、日米欧をまたがる超巨大産業「原発」が、実は核問題との共生関係にあることを暗示するものでもある。「推進力の源」が白日の下に晒されなければ、国民の脱原発運動も単なる“ガス抜き”で終わってしまう。