社会正義を守る市民の砦であるはずの裁判所の果たす役割は甚大である。
しかし、これまでの原発関連の裁判では、ほとんどのケースが敗訴に追い込まれ、たとえ一審で勝訴しても、上告審で敗訴を余儀なくされてきたという。
もし、これらの裁判で、最高裁が危険性を訴える声に真摯に耳を傾け、国民の安全を第一に考えていれば、福島第1のような悲惨な事件は起こらなかったはずという声もある。強引に裁判結果をひっくり返し、原発側を勝訴に導くインセンティブとして、ご叙勲と原子炉メーカーへの天下りがあったとは、誠に持ってひどい話である。
原発事件に関してこれだけいろいろな事実が明らかになっているのにもかかわらず、検察は全く動く気配もないし、集団訴訟に踏み切った弁護士も全国でわずか100人の所以はここにあるのだということがよくわかった。
以下、中日新聞の記事を取り上げる。併せてツイッター、フェイスブックでで1万を越えたMyNews Japan の、原発訴訟で勝訴した最高裁の判事の天下りについて書かれた記事と、東電が設置した、事故調査委員会の委員とその上部組織の委員を、東電の原発訴訟で代理人を勤めていた弁護士とその弁護士事務所の同僚弁護士が勤めている事実についての時事通信の記事を転載する。
アインシュタインは人が作った原子力を人間がなかなかコントロールできないのはなぜかと問われて、「政治学のほうが物理学よりはるかに難しいからだ」と答えたそうである。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2011080802000006.html
社説
司法は「市民の砦」か 週のはじめに考える
過去の原発をめぐる住民訴訟はすべて、結果的に「原告敗訴」で終わっています。福島第一原発の事故を境に、裁判官の考え方は変わるでしょうか。
「相対性理論」で名高いアインシュタイン博士は一九四五年、「アトランティック・マンスリー」という雑誌に次のようなことを書いたそうです。
《原子力が将来、人類に大きな恵みをもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。原子力は脅威です》(講談社刊「科学の巨人 アインシュタイン」)
覆った差し止め判決
福島第一原発事故で、金沢地裁の元裁判官・井戸謙一さんはその脅威をしみじみ感じました。
「いよいよ起きてしまった。まずそう感じました。全国の原発に共通する危険性が、現実化したのだと思いました」
二〇〇六年、石川県にある北陸電力・志賀原発で、全国初の「運転差し止め」を命じた当時の裁判長だった人です。
この裁判では、どんな揺れが原発を襲うかが争点の一つでした。原発近くの断層帯全体が一度に動けば、マグニチュード(M)7・6の地震が起こる可能性が指摘されていました。電力会社は断層は別々に動くと主張し、もっと小さな揺れを想定していました。
井戸さんらは「予測される地震は最大想定値として考慮すべきだ」と考えたのです。
しかし、この判決は〇九年の二審で取り消されてしまいます。新しい耐震設計審査指針に基づく見直しが実施され、「安全」という国のお墨付きが出ていたのです。
名古屋高裁金沢支部は国の安全判断を認めました。「M6・8で十分。断層帯が連動して動くことはない」とする電力会社の想定を妥当とし、最高裁も原告の上告を退ける決定をしました。
最高裁は「二重基準」
井戸さんはこう続けます。
「原発に問題点があることを感じていても、多くの裁判官は過酷事故を起こす現実感を持てなかったのではないでしょうか。今回の事故は、事実をもって、問題点の証明をしたと言えます」
長く原発訴訟に取り組んできた海渡雄一弁護士も「日本の司法は原発の安全性に向き合ってこなかった」と厳しく指摘します。
「そもそも数々の原発訴訟で『原告勝訴』の判決が出たのは、わずか二件だけです。志賀原発の一審判決と、福井県の高速増殖炉『もんじゅ』の二審判決です。それも上級審で敗訴に逆転します。これまでの裁判を見通すと、最高裁はまるでダブルスタンダード(二重基準)を用いているのではないかと思われるほど、常に国の判断に追随してきたのです」
「もんじゅ」の設置許可を「無効」とする判決が出たのは〇三年です。判決は「安全審査に重大な誤りがある」と述べました。それを最高裁が〇五年に覆します。
「最高裁は事実認定しないのが原則ですが、『もんじゅ』では、高裁判決にはない事実認定を書き加え、矛盾する高裁の認定はすべて無視して、国の安全審査に過誤・欠落はないと結論づけたのです。逆に東京電力の柏崎刈羽原発の訴訟では、最高裁は法律上の判断しかしないとして、上告理由はないと退けました」(海渡さん)
裁判官は国や専門家の判断を尊重し、手続きに重大な誤りや落ち度などがなければ「問題なし」としてきたのが実態なのです。
中部電力・浜岡原発の裁判では、後に原子力安全委員長となった班目(まだらめ)春樹氏が中電側の証人として、「(原発の設計は)どこかで割り切る」と証言しました。班目氏は原発事故後の国会で「割り切り方が正しくなかった」と珍妙な答弁をしました。専門家もあてにならない証左です。
この浜岡原発訴訟の弁護団長・河合弘之弁護士を中心として、今年秋から全国各地で「脱原発訴訟」を起こす動きがあります。既に約百人の弁護士が名乗りを上げています。3・11を受けて、国民の認識も裁判官の認識も変わったという風を感じています。
元裁判官の井戸さんも「第二のフクシマを想定し、裁判官の発想も影響を受けるでしょう」と語ります。「正義はあっても力を持たない人間が、立法や行政に頼れないとき、救済できるのは司法だけです。つまり司法は最後の『市民の砦(とりで)』であるべきです」
原点に立った目で
人間が発見した原子力をなぜ人間が管理できないのか。アインシュタイン博士は皮肉を込めて「政治が物理学より難しいからですよ」と答えたそうです。
科学の巨人が「脅威」と語った原子力について、やすやすと最高裁が容認してきたことに驚かざるを得ません。原点に立ち返って、「市民の砦」の役割を期待したいと思います。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201107/2011072200868
東電代理人に第三者委員=福島原発差し止め訴訟など-事故検証委の上部機関
福島第1原発事故を受け、東京電力が設置した「事故調査検証委員会」(委員長・矢川元基東大名誉教授)の上部の第三者機関で委員を務める元裁判官の弁護士(53)が、運転差し止め訴訟など同原発をめぐる複数の裁判で、東電側の代理人となっていることが22日、分かった。東電による事故調査の中立性が問われそうだ。
弁護士が委員となっているのは、2002年に発覚した福島第1、第2原発や柏崎刈羽原発でのトラブル隠し問題の再発防止策として、原発の安全管理などを審議するため同年に設置された「原子力安全・品質保証会議」(議長・同)。メンバーは大学教授ら外部有識者6人で、弁護士は当初から委員を務めている。
東電の事故調査検証委は今年6月、原子力安全会議の下に設置された。検証委の委員7人のうち4人は安全会議の委員が兼ねるが、弁護士は兼務せず、同じ事務所の別の弁護士が就任した。
安全会議委員の弁護士は、北海道の男性が福島第1、第2原発の運転差し止めを求めた訴訟や、東京都の男性が福島第1原発事故で感じた不安に対する慰謝料を請求した訴訟など、事故の前後に起こされた複数の裁判で、東電側の代理人となっている。
慰謝料請求訴訟で東電側は、「想像をはるかに超えた地震と津波に対応できるような対策を講じる義務があったとは言えない」と主張している。
弁護士は取材に対し、「複数の訴訟で東電の代理人をしているのは事実。誤解を受けないよう事故調査検証委から外れており、問題があるとは思わない」と話している。
東京電力の話 会議の委員と原発事故に関する訴訟の代理人とは役割が矛盾するものでなく、不適任とは考えていない。(2011/07/22-20:17)
弁護士が委員となっているのは、2002年に発覚した福島第1、第2原発や柏崎刈羽原発でのトラブル隠し問題の再発防止策として、原発の安全管理などを審議するため同年に設置された「原子力安全・品質保証会議」(議長・同)。メンバーは大学教授ら外部有識者6人で、弁護士は当初から委員を務めている。
東電の事故調査検証委は今年6月、原子力安全会議の下に設置された。検証委の委員7人のうち4人は安全会議の委員が兼ねるが、弁護士は兼務せず、同じ事務所の別の弁護士が就任した。
安全会議委員の弁護士は、北海道の男性が福島第1、第2原発の運転差し止めを求めた訴訟や、東京都の男性が福島第1原発事故で感じた不安に対する慰謝料を請求した訴訟など、事故の前後に起こされた複数の裁判で、東電側の代理人となっている。
慰謝料請求訴訟で東電側は、「想像をはるかに超えた地震と津波に対応できるような対策を講じる義務があったとは言えない」と主張している。
弁護士は取材に対し、「複数の訴訟で東電の代理人をしているのは事実。誤解を受けないよう事故調査検証委から外れており、問題があるとは思わない」と話している。
東京電力の話 会議の委員と原発事故に関する訴訟の代理人とは役割が矛盾するものでなく、不適任とは考えていない。(2011/07/22-20:17)
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