2011年12月18日日曜日

M9地震への備えは?

 東大の地震学の専門家であるゲラー教授は、「日本全土はいつ大きな地震が発生してもおかしくない状態にあり、政府や国民は「想定外はないと考えて、備えるべきだ」と発言しているが、その一方で、相変わらず、さまざまな手法で予測がなされている。そのひとつが12月、1月に、房総沖を震源にM8-9クラスの地震が発生するという予測である。


「起こる、起こる」と言われているところで、一向起こらず、想定外のところでばかり、大きな地震が発生しているというのが、神戸の大震災以来の、国民の専門家の地震予知に対する共通認識であると思われる。

いずれにしても、気象庁のデータによれば、3.11以降、12月17日までの間にM5クラスの余震と言われるものが、576回、M6クラスのものが96回、M'7クラスが6回も生じている。列島の地殻変動が活発になっていることは否定出来ない事実であろう。

そんな状況にありながら、政府は、「フクシマ原発は冷温停止状態となり、安全な状態になった」とな宣言し、避難住民の呼び戻しと、放射能汚染の過小評価と原発再稼働にやっきになっているが、それは大地震がここにもう一度大きな揺さぶりをかけることを想定したものとは到底思えないし、世界のメディアは、この安全宣言を「まやかし」と厳しく斬り捨てている。

政府は、放射性廃棄物の処分場も確保できぬままに、今なお全国15%の原発の稼働を認め、「絆」という美名のもとに、東電によってばらまかれた放射能物質(放射能で汚れた東北、北関東の農作物、畜産物、海産物や放射能汚染灰)を国全体に拡散させようという施策をとり続けている。


このブログでも何度か論じたが、この期に及んでも国は未だ首都機能の分散については、ほとんど全く無関心である。その一方で大阪副都心構想がにわかに大きな話題となって浮上しているが、大阪は、海面より低い土地面積が広いことで有名な地域であることを、今一度十分に認識した上で、副都心構想の立地条件として適切かどうかを熟慮すべきではないのか。

以下、講談社ウエブ版「現代ビジネス」の記事を転載する。

現代ビジネス
経済の死角                  2011年12月16日(金) 「週刊現代」

近づくM9級大震災、あなたは今そこにいて本当に大丈夫か。
そのとき東京では何が起こる?
もし地下鉄に乗っていたら、もし高速道路を走っていたら。


 忘れた頃に地震はやってくる。そしてこの国には残念ながら、必ず大地震がくる。頭で分かっていても、多くの人が行動には移していない。引っ越すことも含めて考えるべきなのに。それもできるだけ早く。

津波が来たら、地下鉄はアウト

 3・11から9ヵ月が経つ。大震災の恐怖も少しずつ薄れつつある。被災地から離れた首都圏になると、3・11以前の日常に戻っている人も少なくない。だが、間違いなく大地震は再びやってくる。そして、そのとき、備えを忘れているあなたはパニックになるだろう。
最近、複数の専門家が房総沖を震源としたM8~9クラスの巨大地震が発生する可能性を指摘している。
東日本大震災では、太平洋海底の日本海溝に沿って、三陸沖から茨城沖まで広がるプレートの境界線付近で巨大地震が次々と発生した。だが、すぐ南隣に並ぶ房総沖の地殻は動かず、エネルギーが溜まったままではないかと疑われているのだ。
東日本大震災の余震発生パターンを研究している独立行政法人建築研究所・研究専門役の古川信雄氏は本誌で、「この地域にはプレートの〝滑り残し〟の部分があると考えられます。房総沖が潜在的に地震を起こす場所であるのは間違いありません」と首都に近い地域での大地震の可能性を指摘している。
3・11のM9地震で震度6強を記録した仙台では大きな被害が出たが、人口がはるかに多く、都市機能の集中した首都圏が同じ揺れに見舞われたらどうなるか。
「房総沖地震」に対する政府の被害想定は発表されていないが、首都が巨大地震に襲われた場合の被害予測はある。中央防災会議によれば阪神・淡路大震災と同程度の首都直下型地震が起これば、死者は1万1000人にも上ると予想されているのだ。そのときどこにいるか、そしてどんな心構えで、どんな備えをしているか---それがあなたやあなたの大切な人の生死を分けるだろう。
まずは地下鉄の場合を考えてみよう。
巨大地震が発生した際、多くの人が携帯などで最初に受け取るのが、緊急地震速報だ。3・11の仙台では地震の本震が到達するまで15~20秒の時間的余裕があった。鉄道では、この速報性が命綱となる。たとえばJR東海では、独自に設置している東海道新幹線早期地震警報システム(通称テラス)によって地震の初期の小さな縦揺れを検知。新幹線を自動停止させるほか、在来線の運転士にも総合指令所から停止の指示を出す。
東京メトロによると、地下鉄も同様に本震到達前に電車を止めるシステムを採用している。そして、いったん停止して本震をやりすごしたのち、電気が通っていれば時速5kmの低速で最寄りの駅に向かう。電力が止まってしまった場合には乗務員が乗客を線路に下ろして最寄り駅に誘導する。
だが避難自体は整然と進んだとしても、実は地下鉄には大きな弱点がある。津波に対して、現状ではほとんど無力だということだ。
「海抜0m地帯などでは駅の出入り口全体を覆う扉を設置していますが、あくまで静かに増水する高潮への対策で、津波への対策ではありません。地下鉄は道路上に換気口がありますが、そこを遠隔操作でふさぐ浸水防止機も開発を進め、設置をはじめていますが、まだほとんどついていないに等しい。それに停電すれば、無数にある換気口を手動で閉めなければなりません」(東京メトロ広報部)

駅は地獄絵図に

水が浸入するであろう開口部は、手が回りきらないほど多数存在するのだ。
では、房総沖でM8~9の地震が起きたら、どの程度の津波が発生するのか。東京大学地震研究所の都司嘉宣准教授はこう予測する。
「外房の旧飯岡町や旭市は8~10m。ここは今回も被害が大きかった地域です。震源の真正面にあたる勝浦や鴨川も被害は大きいでしょう。内房や横須賀では4~5m程度。ゆっくり上がってくるので被害は少ないと思います。横浜、東京はほとんど来ません。せいぜい2mほどで隅田川の遊歩道が浸水する程度。地下鉄が水没するとは考えにくい」
一方、被災地や首都圏の災害の記録を調査してきたまちづくり計画研究所の渡辺実所長は津波による浸水の可能性を否定しない。
「3・11では木更津で津波が観測されたほか、多摩川や荒川にも波が遡上しており、秋葉原近くの神田川を津波らしき波が逆流する映像も撮られています。東京湾は閉鎖湾なので、波が繰り返し反射して大きくなることもあるでしょうし、満潮と重なれば高くなる。下水から逆流して地下に入る可能性もゼロじゃない」
都司准教授も、道路面にある換気口からの浸水も心配されていると伝えると、
「東西線の門前仲町駅や半蔵門線の清澄白河駅、JR京葉線が東京駅に向かって地下にもぐる周辺、有楽町線の新木場駅周辺は注意したらよいかもしれません。換気口が水に浸かる時間は20分程度。どれくらい水が入るかはわかりません」。
一方、津波でなくても水が地下にいる人々をおびやかす可能性がある、というのは元土木学会会長で早稲田大学創造理工学部の濱田政則教授だ。
「房総沖でM9の地震が起きたら、3・11に浦安で見られたのとは比べものにならない液状化が起こるでしょう。心配なのが0m地帯です。隅田川、荒川、中川付近の江東デルタ地帯など海面より低いところは、『カミソリ堤防』と呼ばれる垂直な堤防に囲まれて守られていますが、液状化で一部でも破壊されると、いっきに浸水します。地下街、地下鉄、地下変電所などは水没してしまうでしょう」
海抜0m地帯は堤防によって守られているが、1ヵ所が崩れれば中は水浸しだ
 上図の中央付近、堤防に囲まれた海抜0m地帯が江東デルタ地帯だ。ここにもいくつもの地下鉄が走り、駅や換気口が存在する。こうして地下鉄に水が浸入すれば人々は逃れようと焦り、駅が地獄絵図になると前出の渡辺氏は言う。
「停電した場合は、時間が経つと地下は真っ暗になります。みなさん誤解しているんですが、非常灯のバッテリーは意外ともたない。火災を想定したものなので、せいぜい40分です。止まった列車から線路を歩いて避難することになれば、駅につく頃には駅員と乗務員の懐中電灯に頼るしかない。そうやってたどりついても、たとえば大江戸線のいちばん深い駅は地下40mのところにあって、ビル10階分登らないと地上に出られない。階段や止まっているエスカレーターを、誰もが走って上がろうとします。ところがエスカレーターの一段の高さは普通の階段より高い。ハイヒールの女性やお年寄りが転倒したら、あとはドミノ倒しです」
それでも、水が迫るかもしれず、闇に沈む地下からは一刻も早く地上に出る以外、選択肢はないという。

高速道路は〝火の川〟に

もしあなたが臨海地域にいたなら、液状化によって命の危険にさらされるかもしれない。前出の濱田教授は力説する。
「東京湾岸の埋め立て地では、液状化した地盤が水平に動いてしまう側方流動が起こります。阪神大震災では7mも動いた例がありますし、3・11でも浦安の三番瀬の護岸が1・7m動きました。埋め立て地にあるコンビナートの安全基準は液状化や側方流動が研究される前に定められたもの。3・11では千葉県市原市のコスモ石油の液化石油ガスのタンク火災が起きましたが、東京湾には他にも石油タンクなどが5000基以上ある。液状化による破損で10基でも同時に火災を起こしたら消防はお手上げです。コスモ石油では球形タンクが火災で爆発して、破片が最長6km近く飛んだそうですから、近隣の地域も必ずしも安全ではない」
 さらに液状化が直接、人の命を奪うこともある。地震地盤工学が専門の関東学院大学の若松加寿江教授はこう語る。
「1964年の新潟地震では液状化で土砂の噴出した穴に吸い込まれて2人が亡くなっています。'87年の千葉県東方沖地震のとき、利根川流域で液状化した田んぼを見に行って胸まで飲み込まれた人から聞いた話では、底なし沼に吸い込まれるような恐怖だったとか。液状化しそうな地域にいて、地面が波打ったり盛り上がったりするのを見たら、すぐにしっかりした構造物の中に逃げる。地面の上にいるなら、せめて舗装された場所に上がったほうがましでしょう」
 すぐには逃げ出せないという点から言えば、高速道路も危ない。慢性的に渋滞する首都高もっとも怖いのは車輌火災だ。首都高を管理・運営する首都高速道路株式会社では、地震発生時には急ブレーキをかけず、緊急車輌のために中央部を空けてゆっくり停車してほしいと呼びかけている。しかし、万が一、誰かが急ブレーキをかけ、玉突き事故などを引き起こして一台でも出火すれば、すし詰め状態で停まった自動車に次々と引火して道路が〝火の川〟になる可能性がある。
「消火活動は消防署が行います」(首都高速道路広報室)というが、大規模災害時に消防車が間に合うのかは未知数だ。高速道路上で、その場にとどまれないと判断した場合には1kmごとに設けられた非常口(トンネルでは400mごと)から避難するしかない。
さらに専門家たちが「大地震のとき、そこにはいたくない」と口を揃えるのが高層ビルの上階だ。3・11の際、東京の高層ビルでは最大3~4mの揺れが5分以上もつづいたものもあり、オフィスのコピー機がフロアをすべって動き回り、書架が倒れるなど大きな被害が出た。遠方の震源からくる周期の長い揺れ、「長周期地震動」によるものだ。
「想定される房総沖地震の特徴は、震源が近く、揺れが大きいわりに、直下型ではないため長周期地震動の影響が顕著に出ることでしょう。高層ビルには建物ごとに固有の周期があって、地震の揺れと共振を起こすと何が起こるかまだわかっていない。『座屈』といって、9・11テロのように、建物が上からつぶれていく可能性もある。制震・免震などの新技術が導入されていないビルでは共振を防ぐ術はない」(前出・渡辺氏)
高層ビルで地震にあったときの対処法はマンション、オフィス、商業施設どれでも同じ。長い揺れがおさまるまでどこかにつかまり、周囲に目をこらしてぶつかってくる家具やOA機器を避けながら、身の安全を図るしかない。

高層ビルは上から崩壊

高層ビルが林立するオフィス街や繁華街の路上にいる人は、大地震の瞬間はとにかく頭を守り、落下してくる割れたガラスや看板などを避けるしかない。
だが、揺れがひと段落すると、今度は店舗やオフィスから避難してきた大量の人にもみくちゃにされる。多くの人は家に帰ろうと、いっせいに郊外に向けて動き始めるが、そこには別の恐怖が待ち受けている。
「中央防災会議の報告で、下町や杉並や世田谷の環状6号線と7号線の間に、木造家屋の密集した非常に燃えやすい地域があることがわかっています。いまの東京には広い道路や川などの延焼防止帯がなくて、燃え出したら止まらない危険性がある」(前出・濱田教授)
だが多くの人はその火に向かって進んでしまう、と前出の渡辺氏はいうのだ。
「3・11と同じように首都圏を放射状に走る幹線道路を人々が歩いて帰ろうとするでしょう。ただ、あの時は東京が被災地ではなかったのでみんな家に帰れましたが、今度はそうはいかない燃え盛る環状6号線の手前あたりで、後ろからは続々と人が押し寄せてくるのに、前は火災という状況になります。大正12年の関東大震災で荷物に火が燃え移って多数の人が生きながら焼かれましたが、同じことが起こるかもしれない」
現在東京都では、企業には社員をむやみに帰さず、社屋に非常用の備蓄をして留め置くことや、デパートなどの商業施設、ホテルなどに買い物客、観光客などを受け入れることを義務化する条例案を作成中だ。
房総沖M9。そのとき、たったひとつの判断があなたの生死を決める。
「週刊現代」2011年12月17日号より