「北電に自浄能力はないのか」--。泊原発を巡る北海道電力の「やらせ」問題で、北電幹部が参考人招致された7日の道議会特別委員会。社内に設置された第三者委員会の調査を盾に詳細を明らかにしない北電側に対し、質問に立った道議や傍聴者からは「説明にならない説明を何時間も聞かされた」と不満の声が相次いだ。【高山純二、片平知宏、岸川弘明】
◆北電
参考人招致は午後3時から2時間半以上に及んだ。北電は川合克彦副社長ら幹部7人が出席し、冒頭に全員が頭を下げるなど終始硬い表情のまま低姿勢を見せた。道議から「やらせ指示」の詳細について質問が出ると、歯切れが悪くなる場面も目立った。
道主催のシンポジウムで「やらせ」を指示したとされるメールについて、北電は「メールソフトの更新をしたので残っていない」と釈明。一方で、ソフトの更新時期を答えられないなどし、傍聴席からは「つじつまが合わない」などとヤジが飛んだ。また、今後の焦点となる「やらせ」を指示した人が誰かという質問には「現在の調査では解明できていない」と述べるにとどめた。
◆道議
道議会の各会派からは厳しい意見や質問が相次いだ。北電の参考人聴取は09年1月、プルサーマル計画を巡る招致以来となり、福島第1原発事故以降では初めて。
やらせ指示問題を暴露した共産党の真下紀子道議は「国から指示があったのではないか。全員にお答えいただきたい」と幹部7人全員に認識を問いただそうとしたものの、北電は浜谷将人電源立地部長が「第三者委員会で調査しており、答弁を控えたい」。真下道議は「そういう答弁だから隠していると思われる」と批判した。
また、自民党・道民会議の千葉英守幹事長は「報道で伝わる北電の会見や社長の言動から反省の姿勢がみじんも見えないとの声も上がっている」と指摘。傍聴していた民主党・道民連合の市橋修治道議も「道民が納得いく答弁ではなかった。やらせメールを本当に反省しているのか疑問だ」と北電の説明不足を批判した。
◆傍聴者
北電への参考人聴取は道民の関心も高く、30の傍聴席は満席となったほか、音声のみを流す別室にも10人前後の道民が集まった。
傍聴を終えた札幌市北区の専業主婦、伊川静子さん(62)は「『第三者委員会で調査する』とばかり言っていて、自身の努力が見られない。今回の説明では納得いかない。道民をばかにしている」と怒りをあらわにした。
また、反原発団体「Shut泊」の泉かおり代表=札幌市=は「すべてを『第三者委員会』の説明で逃げられた。そもそも、(北電から)独立した委員会での調査が必要であり、委員の選考なども北電がやることではない」と述べ、北電が強調した調査の信頼性に疑問を呈した。
◇幹部ら「第三者委に調査委ねる」
7日の道議会特別委では、シンポジウムでの「やらせ」問題を中心に6人の道議が北電経営陣らに説明を求めた。
星野高志氏(民主)は第三者委員会の調査対象や権限を質問。蔵田孝仁企業行動室長は「グループ企業にも広げるかどうかなど、調査範囲は第三者委の判断に委ねる」と説明。川合克彦副社長は「委員会の判断で社長ら経営陣も対象になる」と明言した。
星野氏は、99年にも北電の泊原発3号機増設を巡る意見書提出の「やらせ」問題が発覚した点に触れて「自浄作用発揮のため内部通報制度を作ったらどうか」と詰め寄ったが、蔵田室長は「調査結果を踏まえて判断したい」と明言を避けた。
吉井透氏(公明)は国、道主催のシンポでの「やらせ」問題に役員が関与していたかを問いただした。蔵田室長はこれも「第三者委の調査に委ねたい」とかわし、国に「問題ない」と報告した後に動員指示が判明した経緯についても「各部門で精査し、関係部長が確認して国に報告した。国からの『やらせ』指示の有無も第三者委の調査を待ちたい」と述べるにとどまった。
千葉英守氏(自民)は99年の「やらせ」問題の経験が生かされていないと批判。これに対し蔵田室長が「行動憲章や行動指針の策定、各種啓発活動を行ってきた」と説明し、川合副社長は「意識改革に取り組んできたつもりだが、大変遺憾に思う」と陳謝した。
また、大河昭彦氏(フロンティア)がプルサーマル計画の開始時期を確認すると、阪井一郎原子力部長は「来春開始は大変厳しい」と説明。鳥越良孝氏(北海道大地)は、3号機の営業運転再開を「早すぎたのでは」と疑問視。阪井部長は「国から2度にわたり(営業運転移行のための)最終検査を受けるよう指導があった。受けなければ法的な罰則もある」と、国の指示に基づいたものと繰り返した。
プルサーマル計画凍結と泊原発の運転停止を求めた真下紀子氏(共産)に対しては、酒井修常務(発電本部長)が「北海道の発電電力の40%は原子力で必要な電力だ」と反論した。【吉井理記】