2012年9月8日土曜日
再稼働不要の裏付け:2012年夏
世界のジャーナリストはどう見るのか?:日本の優良放送番組お取り潰しの危機
原発問題を積極的に取り上げ、脱原発派の間で話題のラジオ番組、毎日放送(大阪市北区)の「たね蒔(ま)きジャーナル」の打ち切りが検討されている。31日には聴取者らが放送局前に集まり、存続を求めた。
「たね蒔きジャーナル」は2009年10月に始まり、平日午後9~10時に放送中の報道番組。毎日放送のアナウンサーが司会を務め、様々なゲストと共に時事問題を幅広く取り上げてきた。東日本大震災後は原発報道に力を入れ、危険性を訴える京都大学原子炉実験所の小出裕章助教の解説などを伝えている。
今年3月には一連の原発報道が評価されて、坂田記念ジャーナリズム賞特別賞を受賞した。テレビの視聴率に当たる聴取率も堅調という。番組の内容がネットを通じて広まるなど、脱原発を掲げる人々を中心に支持されている。
http://blogos.com/article/44145/
マスメディアの正体 その2広告とメディア~「たね蒔きジャーナル」の打ち切りを考える
本日二本目のエントリー。
まずは以下のリンク先の記事をご覧いただきたい。
この二人の対談は複数の雑誌を渡り歩いている。私はもう十年以上前になるだろうと思うが、自動車雑誌「NAVI」に連載されるようになってから読むようになったが、その後も「週刊ダイヤモンド」に移り、そして現在は「ソトコト」で連載されている。
田中康夫ファンの私は、できるだけ目を通すようにしているのだが、今回の「憂国呆談」を読んで一つ「ほお~っ」と思ったことがある。それはこの対談の中で浅田、田中のご両人が厳しい東電批判をしていることと関係している。
といっても、この二人が東電を批判していることに驚いたのではもちろんない。対談の内容自体は私にとっては至極当然でまことにもって腑に落ちるものだ。
では、何に対しての「ほお~っ」かというと、「ソトコト」が東電批判が語られている対談を掲載したことについての「ほお~っ」なのである。
3・11以前、「ソトコト」は東電のタイアップ記事を毎号掲載していた。私は以前にそのことについて、以下のようなエントリーを書いたことがある。
上記のエントリーでは書かなかったが、このタイアップにおける1号あたりの東電の出稿金額は、私の試算では500万である(ソトコトの広告料金から試算)。年間に直すと6000万。タイアップ記事なので制作費はかかるが、それは別途徴収しているはずだ。
広告という商売のうま味は、、それだけの金額がほぼ“真水”で入ってくるという点にある(上記の私の試算では、広告代理店が手にするマージンはのぞいてある)。つまり恐ろしく利益率が高い。そして、「ソトコト」の例でいえば、これだけのカネを出してくれるクライアントは第一級である。
であるならば、3・11以前であれば、このような内容の対談は絶対に掲載されることはなかった。
というのも、業界用語で言えば「記事同載」(同じ号に広告とそのクライアントのネガティブ記事が掲載されること)というのは絶対に避けなければならない、広告マンの初歩の初歩であるからだ。
かつて私は自分が広告営業マンだった時代、担当する媒体にどうしても入れたいクライアントがあった。そこで、その扱い代理店から調べて、細いツテをたどってようやく「お試し」ということで軽いタイアップ広告を掲載するところまで辿りついた。
ところが、その記事が掲載された同号の編集ページで、このクライアントのタブーに触れる記事があったのである。といっても、その記事は一つの特集で、その中の数行にそのクライアントの創設者についての表現があった。しかもそれは悪く書いてあるわけではない。だが、そもそも「触れること自体がNG」だったのだ。
これはもちろん、そういう記事が掲載されることに気がつかなかった私の責任である(もちろん掲載台割は確認していたが、この特集記事についてはタイトルだけが書いてあり、中身まではチェックをしていなかった)。
まあそれでも大きなもめ事にはならなかったのは幸いだが、少なからぬペナルティを科せられたものだった。
あるいは──
これは私自身の身にふりかかったわけではないが、やはり広告営業時代、ある雑誌の編集が超第一級のクライアントを怒らせてしまったことがあった。このクライアントは当時、私が勤務していた会社の複数の雑誌に非常に大きな出稿をしており、つね日頃から注意はしていたのだが、ひょんなことから広告部の気がつかないところでミスが起きたのである。
この時はしばらくの間、当該雑誌だけでなく、他にも出稿のあった全雑誌での広告が止まったものだった。この事態をなんとか打開するには、詫びに詫びるしかない。そして、最終的には、このクライアントのトップが会社を訪れ、出稿のなかった雑誌も含む(私の担当する雑誌はまったく関係がなかった)全誌の編集長が招集され、このトップの話(ブランド戦略等)を拝聴するということで解決が図られたのであった。
くどくどと書いてしまったが、つまり私がここで何を言いたかったかというと、一つの政権を葬り去るぐらいの強大な力を持つマスメディアも、広告主(それも大きな広告主ほど)にはからきし弱いということだ。
といって、「だから広告はいけない」と言うつもりは私にはない。電通や博報堂が裏でとんでもないことをやり放題やっているというつもりもない。
むしろ、本来、媒体社は広告主や広告代理店に対して最低限譲れないラインを敷くことこそが必要で、そこに媒体社の“見識”が現れると思う。
もっとも広告不況と呼ばれるなか、広告主の力は実際問題としてどんどん上がってきているのだが……。
そこで本エントリーのメインテーマに移る。
毎日放送(MBS)のラジオ番組、「たね蒔きジャーナル」が打ち切られる可能性が高いという。
マスメディア総崩れ状態の今日、そのなかで一定のクオリティを維持しているのがラジオである。
それはテレビや新聞に比べて、「現場」の規模が圧倒的に小さく、かつ機動性があるからで、だからプロデューサーやディレクターの意向がわりと強く出せるのだと思う。
私は関東在住なので、関西圏のラジオを聴くことはできない。だが、この「たね蒔きジャーナル」については、その放送がYouTubeにアップされるため、私はこれをいつも聴いている。もちろん本来は違法だが、おそらく毎日放送(というより現場のプロデューサー)もその内容を幅広く伝えたいがために削除要請をしていないのだろう。
ご存じの方も多いと思うが、この番組には京都大学の小出裕章助教が定期的に出演している。
この小出氏は改めて言うまでもないが、反原発派の大御所である。したがって、他のメディアに出演することはほとんどない(テレビ朝日の朝の番組に時々出るが)。
本来、福島第一原発の事故は起こり得ると警告を発してきた学者と、絶対に起きないと断言していた学者のどちらを今日の状況で信用すべきかと言えば、明らかに前者のはずだ。
にもかかわらず、マスメディアに登場するのは、いわゆる御用学者のみ。
そういうなかで、小出助教が出演して、現状の福島第一原発や他の原発、あるいは原子力関連施設の分析、知見を話してくれたり、リスナーからの疑問に答えてくれる「たね蒔きジャーナル」は私のような者にとってはとてつもなく重要な情報源であった。
その番組が打ちきりの瀬戸際にあるという。
おそらく毎日放送はその理由について、「以前から決まっていたこと」とか「番組編成の見直しの一環」としか言わないだろうが、その内容からして、番組に強い圧力がかかっていたことは間違いないと思う。
なかでも放送局にとってもっともキツイのは広告がらみの圧力で、となると関西電力あたりからの圧力である可能性が高い。
パナソニックやシャープといった関西資本のメーカーの業績が悪化している。となると、当然、真っ先に削ってくるのは宣伝費で、それが関西の放送局の広告収入を直撃する可能性は高い。そうしたなかで、数少ない有力クライアントからの圧力がかかれば、現場がどれだけ抵抗しても、会社として屈してしまうのではないだろうか……。
と、まあこれはあくまで私の推測である。