保安院は、ろくな検討も加えず、早々に日本の原発の安全宣言を出し、それを受けて、18日、海江田経産大臣は原発の再稼働を自治体に要請したという(毎日新聞)。その舌の根も乾かぬ20日彼はウィーンのIAEAで、堂々と各国代表の前で「この事故の状況を国際社会に正確かつ迅速に伝えることは我が国の責務である」とし、「事故の徹底的な検証をふまえて、最高水準の安全性を確保するために抜本的な措置を講じると言い放った(TV朝日)。
下記に転載したWSJによれば、20日の閣僚級会議に提示されたIAEAの報告書では、福島原発が地震と津波の被害による被害の軽減が可能だった国際安全基準の履行を怠っていたとの見解を示し、日本の原子力当局はIAEAの基準に沿って、周辺住民を迅速に避難させなかったこと、自己の際の被害と放射線を封じ込めるための保護措置を十分に構築していなかったと批判している。
こうした批判に対して、様々な専門家からの警告を無視し、安全の履行を怠り続け、ひたすら原子力産業の発展を推進してきた保安院や安全委員会の責任者はどう答え、どんな形で責任をとるつもりなのか。確かなことがあるとすれば、彼らがもはや、国の原発の安全確認を行うような重責を担うに足りない人々であるということである。
鳴り物入りの外国製汚染水除去装置はまともに機能しないまま、いよいよ明日から東北地方は梅雨入りするという。その一方で、作業環境改善のため、今日は2号機の二重扉が開放され、16億ベクレルもの放射能物質が外部に放出されたそうだが、東電は周辺のモニタリングポストの数値に変化はないと見込んでいるという(東京新聞)。http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011062002000025.html
我々は3.11以降テレビを通して、「一旦外に漏れた放射性物質は、半減期の短いヨウ素を除いては、そんなにたやすく消えるものではないからやっかいなのだ」という専門家の説明を嫌と言うほど何度も受けてきたが、不思議なことに福島原発から出る放射性物質だけでは、どこかで都合よく消失してしまうものらしい。
京大の小出氏が、このような汚染水の放射性物質を除去して、冷却水を循環させるという対応策に限界を見て、前から提案している地下ダム構想を、ようやく政府の一部関係者がまともに取り上げ始めたというが、これに対して、東電が、株価維持のために抵抗を示しているという。なんと言うことだろう。
「国民の命か、金儲けか」、商売人がなんと言おうと、一国の大臣である以上は、国民の健康や安全の重みぐらいは理解し、公的良識人として節度ある態度をとってもらいたいものである。
国際会議で、なんとか各国の厳しい追及をかわしたつもりなのかもしれないが、バブル崩壊後、日本が唯一とりえにしてきた美しい自然、空気、水、食の安全さえ、原発のおかげで完全に地に落ちてしまったのである。
そうした日本が各国からの信頼を回復するために、大臣がなすべきことは、自国の深刻な原発事件の収束のめどもたたない中、意気揚々と原発推進を宣言することだろうか。
逆に「日本は、ひとの命を、命とも思わず、金のためには何を犠牲にしても厭わない国」というマイナスの印象を各国に与えているだけであるということを、十分に自覚した上でのことなのだろうか。
原発:夏前ありき「安全宣言」…再稼働要請へ
海江田万里経済産業相が18日、「各原発ではシビアアクシデント(過酷事故)対策が適切に取られている」とし、再稼働を地元自治体に要請する考えを示したのは、放置すれば電力不足が深刻化し、日本経済や生活に重大な影響が出ると判断したためだ。だが、肝心の原発の安全性については地元の疑問や要望に応えておらず、再稼働への道筋は見えていない。【野原大輔、中西拓司、久野華代】
◇政府、電力不足恐れ
「(今回の対策が)行われた上でもなお再稼働できない場合には、関東、東北だけではなく、中部、関西、西日本においても産業の停滞、国民生活の不安が出てくる」
定期検査などで停止中の原発のうち、本来なら今夏までに再稼働するはずの原発は11基。定期検査は13カ月ごとに義務付けられており、待つほど稼働中の原発は減ることなどから、「ドミノ的に電力不足が広がる」(電力関係者)懸念がある。
海江田経産相は原発の所管大臣である一方、産業振興の担当でもある。全国的な電力不足に陥れば生産などに大きな支障が出る経済界からは「国が責任を持って国民に説明し、再稼働を図ってほしい」(日本商工会議所の岡村正会頭)などのプレッシャーが集中している。電力消費がピークを迎える真夏まで残された時間はほとんどなく、これ以上の日本経済への打撃を避けるためには、自ら乗り出して再稼働を働きかけるしかないと判断したとみられる。
さらに、海外向けに日本が原発の安全対策に最大限取り組んでいることをアピールするという意味もある。海江田経産相は、20日からウィーンで開幕する国際原子力機関(IAEA)閣僚級会議に出席し、原発対応を報告する。会議前に発表するために原発の現地調査などを急いだとみられるが、「スケジュールありき」で進められた側面は否めない。
しかし、地元自治体が再稼働に応じるメドは立っていない。政府が中部電力浜岡原発の停止を要請した際、「国策として協力してきた地元への説明がなく、信頼関係がなくなった」(福井県敦賀市)ことが響いており、今回の再稼働要請に対しても「国は責任ある説明が必要」(高橋はるみ・北海道知事)など慎重姿勢を崩していない。
地元は全国一律の安全基準以外に、それぞれの事情に応じた対応策を求めている。例えば、福井県は運転開始から40年以上を経過した高経年化原発へのより厳しい安全基準の必要性を指摘している。だが、海江田経産相が、各自治体の要望に沿った対策を持っていくのは「時間的に無理」(経産省幹部)とみられ、国と自治体の間にある「不信」という溝は埋まりそうにない。
◇事故対策…対症療法否めず
原発の安全規制を担う経済産業省原子力安全・保安院は、福島第1原発事故のようなシビアアクシデント対策について7日に調査を始めてからわずか11日で原発の「安全宣言」を出した。だが、今回の点検項目は、水素爆発対策など第1原発の事故に関係した5項目だけで、それ以上については「今後の検討課題」(保安院)。現地立ち入り検査もたった2日間で終え、発表を急ぐ政府に配慮して「お墨付き」を与えた格好になった。
「保安院は(再稼働について)地元同意を得るためにやっているのではない」。保安院の山本哲也・原発検査課長は18日の会見でこう述べたが、会見には資源エネルギー庁幹部も同席。「(電力供給不足による)産業空洞化は今そこにある危機」とするエネ庁作成の資料も配布され、「一体感」は否めなかった。
保安院は11事業者に対して、福島第1原発1~3号機で発生した水素爆発対策、中央制御室の非常用換気装置の電源確保などを求めたが、いずれも第1原発の事例をなぞった「対症療法」。より過酷な事故対策については「どういう事態を想定するかも含めて中長期課題で取り組む」と述べるにとどめた。
各事業者の取り組みも「津波浸水を想定し、2017年度ごろまでに内線電話交換機電源を高所へ移設」(関西電力美浜原発1~3号機)▽「今後3年程度で水素ガス抑制装置を設置」(九州電力玄海原発1~4号機)--など、緊急性を優先しているとはいえない。
「人類が経験した原発事故をすべて考えて対応した。今回の対策をやっている原発は安全だ」。西山英彦・保安院審議官は18日夜の記者会見で力説した。
◇原子力安全・保安院が実施した調査の流れ◇
7日 国際原子力機関(IAEA)閣僚会議に提出する政府報告書を受け、電力各社など11事業者に「水素爆発などの過酷事故」を想定した対策の報告を指示
14日 11事業者から報告書を受理
15日 関電、九電などの各原発を立ち入り検査
16日 東電福島第2などの各原発を立ち入り検査
18日 全事業者について「対策は適切に実施されている」との調査結果を公表。海江田万里経産相が現在停止中の原発の再稼働を要請
20日 IAEA閣僚会議に海江田経産相が出席、国内の取り組み状況を報告へ
毎日新聞 2011年6月19日 9時06分(最終更新 6月19日 11時00分)
【原発】海江田大臣がIAEAで福島事故を報告(06/20 19:58)
海江田経済産業大臣:「(Q.説得力のある説明ができそうですか)一生懸命やります」「この事故の状況を国際社会に正確かつ迅速に伝えること、そこから得られる教訓を国際社会と共有していくことは、我が国の責務であります」
海江田大臣は「事故の徹底的な検証を踏まえて、最高水準の安全性を確保するために抜本的な措置を講じる」と加盟各国に伝えました。加盟国のうち原発の全廃を決めているスイスは、日本の安全対策の不備を厳しく指摘する報告書を出しています。また、今回の閣僚会議でIAEAが作成する包括報告書には、日本の複雑な体制や組織が緊急時の意志決定を遅らせる可能性があるという評価が盛り込まれる予定です。
日本、地震と津波の被害への備え怠る-IAEAが福島原発事故で報告書
国際原子力機関(IAEA)は19日までに福島第1原子力発電所事故に関する報告書をまとめ、日本当局は津波と地震による同原発の被害の軽減が可能だった国際安全基準の履行を怠っていたとの見解を示した。同報告書は20日開かれるIAEA閣僚級会合に提出される。
同報告書は、日本の原発事故とその後の対応に関するこれまでで最も客観的な検証で、1週間にわたる同会合での原子力安全性に関する議論の枠組みとなる。
同報告書は福島原発のエンジニアらの事故への対応を称賛する一方で、他の大半の点について日本の危機への備えと対応に批判的だ。同報告書は、日本が地震と津波に対する原発保護のためのIAEAガイドラインを履行しなかったほか、日本の原子力当局はIAEAの基準に沿って周辺住民を迅速に避難させなかったと指摘。さらに原発事故の際の被害と放射線を封じ込めるため多重な保護措置を十分に構築していなかったと批判した。
同報告書は、危機が深刻化した際、福島第1原発から半径20キロから30キロの間に住む住民に屋内待機を命じる一方で、20キロ以内の住民には避難を要請した日本当局の勧告の仕方に疑問を投げ掛け、「長期的な屋内避難は有効なアプローチではない」と述べた。
IAEAは、周辺住民に対しては放射線量が危険な水準に近づくなど具体的な基準に応じて避難勧告すべきだったとしている。同報告書は、日本のデータとIAEAチームの現地調査結果に基づいているが、同チームは避難前に住民が浴びた放射線量を特定できなかったとしている。
同報告書は、原発事故からの復旧に向けた工程表は「野心的だが達成可能にみえる」とした。もっとも、「環境保護と同様に持続可能な安全を確保するために是正すべき問題がある」と述べている。
しかし原発安定化の作業では後退している点もある。17日には、原発現場にあふれている大量の高濃度汚染水を浄化する鳴り物入りのシステムが始動わずか5時間後に、停止された。東電はこの修理に全力を挙げており、21日までにシステムを復旧したい考えだ。
日本の原子力規制当局である原子力安全・保安院のスポークスマンは電話取材に対し、同保安院がIAEAの報告書の検討結果を承知していると述べ、大規模な原発事故に対処するための避難方針を再検討していると述べた。
同スポークスマンは、地元住民への勧告は地元自治体との緊密な協議を経て迅速に出されたと述べた。ただし「われわれは、事故に伴い、これほど長期間にわたって避難が必要になるとは予想していなかったし、屋内避難をもっと本格的な避難に格上げするガイドラインがなかった」と釈明した。
IAEAは報告書の中で、日本の原発当局は原発の制御室の操作装置の欠陥など、過去に発生した出来事を想定した安全点検を適切に実施していたが、地震や津波といっためったにない脅威に対する安全点検を実施していなかったとし、「外部からの脅威に対する蓋然性の高い安全評価は(安全・保安院によって)義務付けられていなかった」と述べた。
IAEAはさらに、日本の規制当局は一義的に最近の地震データに依存していたため、地震リスクを過小評価していたとし、IAEAガイドラインで勧告されているように、「歴史的および前史的な地震に関する古地震学・考古学上の情報」を検討すべきだったと結論している。
また、2002年にIAEA主導の専門家チームが実施した点検の勧告に応じた「津波被害のための多層防御規定が不十分だった」とし、「こうした追加的な防御措置は日本の規制当局によって点検・承認されていなかった」と指摘している。