核燃サイクル:秘密会議問題 原子力委員長が主導 原発依存度「コントロールできる」
毎日新聞 2012年08月25日 東京朝刊
内閣府原子力委員会が原発推進側だけを集め「勉強会」と称する秘密会議を開いていた問題で、近藤駿介原子力委員長が有識者会議「新大綱策定会議」を巡り昨年12月8日、原発依存度について「最後はコントロールできる」と自ら原発維持の方向で取りまとめる方針を明らかにしていたことが分かった。毎日新聞の情報公開請求に対し、経済産業省資源エネルギー庁が24日開示した職員作成の議事メモに記載されていた。近藤委員長の発言内容が明らかになったのは初めて。(3面に解説と議事メモ要旨)
秘密会議は昨年11月〜今年4月、計23回開かれ、近藤委員長は1回目から連続4回出席したことが判明している。近藤委員長はこれまで秘密会議への出席を認める一方「あいさつしただけ」とし監督責任にとどまるとの見解を示していた。議事メモによると、策定会議やした。 政策を議論する有識者会議(小委員会)の議題も指示しており、秘密会議を主導していた実態が判明
エネ庁が公開したのは7回分計58ページの議事メモ。このうち昨年12月8日分に近藤委員長の発言があり、将来の原発依存度を話し合った策定会議について「円滑に議論は進まないかもしれないが、いざとなれば(原子力)委員会が引き取る。(議論がまとまらず、依存度ゼロかどうか)両論併記としても最後の打ち出し方はコントロールできる」としていた。当時、原子力委は策定会議の議論をベースに原子力政策全般を定めた「新大綱」を作成する方針で、「最後の打ち出し」は新大綱を指し、原発維持で結論づける姿勢を示した。
同日分のメモによると、近藤委員長は「論点ペーパーをまとめてみたので、これをベースに大綱(策定)会議で議論してもらったらどうか」「(高速増殖原型炉)もんじゅについて(次の)小委員会で検討したらどうか」などと指示していた。
エネ庁、文部科学省、電力事業者らで開いていた秘密会議は5月24日、毎日新聞の報道で発覚。策定会議メンバーから批判が噴出し、同会議は5月29日を最後に開かれていない。原子力委はメンバー入れ替え後の再開を予定しているが人選が進んでおらず、新大綱作りはストップしたまま。近藤委員長は24日、取材に対し「(議事メモの発言は)自分にとってはあいさつの世界。委員長としての決意を語っただけ。(新大綱は)最後は私の責任でやる」と話した。【取材班】
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33328
「誰にも言わんけど、ホンネを言えばおっかないよ。活断層があるかも知れないのに、今も(原発は)動いてるんだから」
緑が生い茂る山と、穏やかな海に囲まれたおおい町(福井県)で出会った老婆は、日差しの下で顔をしかめた。
原子力安全・保安院は関西電力の大飯原発と北陸電力の志賀原発(石川県)の敷地の下に活断層がある疑いがあるとして、7月18日に両社に断層の再調査を命じた。しかし、大飯原発3号機と4号機はフル稼働中だ。政府は「念のための調査」であることを強調しているが、本当に念を入れるなら、運転を中止して調査をするのが筋であることは、子供でも分かる論理だ。言うまでもないが活断層は突然出現するものではない。再調査は立地時の審査では見逃されていた活断層を調べ直すことを意味する。
一体なぜ、今になって活断層が〝発掘〟されているのだろうか。
「原子力安全・保安院や原子力安全委員会は、原発を建てたいがために、『御用学者』に杜撰な審査をさせ、それを認めることで活断層の上にも原発を建ててきたんです。大飯や志賀以外の原発からも、これからボロボロ活断層が見つかる可能性がある。さしあたり危惧されているのは、大飯原発の2号機と3号機の間を横切る『F–6断層』です。私が5月に見た資料には、岩盤と岩盤が擦れた時にできる軟らかい粘土や、細かく砕かれた岩のスケッチが描かれていた。活断層であることを示す典型的な地層です」
こう警鐘を鳴らすのは、東洋大学社会学部教授の渡辺満久氏(55)。変動地形学の第一人者で、「原発ゼロの会」の議員が作成した「原発危険度ランキング」の活断層評価に携わり、大飯と志賀の再調査決定に大きく影響を与えた人物だ。
球形の原子炉建屋の直下に、幾本も走っている。
「前述のF–6断層は、大飯原発から1kmの距離にあるFO–Aという海底の活断層と連動してズレる可能性が高い。その場合、M7.6~7.8クラスの揺れが原子炉を襲う可能性もあります。あろうことか、F–6断層の上には、原発の最重要設備である『Sクラス』に分類される『緊急用取水路』が走っている。なぜこんな審査が通ったのか、理解に苦しみます」
大飯原発の3号機と4号機が営業運転を開始したのは'91年と'93年。志賀原発の1号機と2号機は、'93年と'06年だ。当時、両原発で恣意的に活断層が見逃された疑いは拭えない。
大飯原発は毎秒80tもの海水を冷却のために要している。冷却システムが機能しなくなった時、非常用の冷却水を確保するための設備が緊急用取水路だ。その真下の活断層が動いた時に原子炉が冷やせなくなれば、メルトダウンの悪夢が繰り返されることになる。原子炉格納容器の元設計者で、原子力安全・保安院の「ストレステスト意見聴取会」の委員を務める後藤政志氏は次のように言う。
「真下にある活断層がズレたら、原子炉はアウトです。大飯原発のようなPWR(加圧水型原子炉)の場合、格納容器の厚さは2m。地面が1mもズレたら、真っ二つに割れる。そうでなくても、地面がズレたら原子炉は自重を支えることはできません。仮に倒壊を免れた場合でも、原子炉が傾けば制御棒が入れられなくなると考えるのが自然です」
渡辺氏は「志賀原発もM7超の地震に襲われる可能性がある」と警告する。M7級は、阪神・淡路大震災に匹敵する規模の巨大地震だ。
審査を骨抜きにする男
再び冒頭の問いに戻る。なぜ、活断層の上に原発が建てられたのか。
鍵を握るのは、旧通産省の工業技術院地質調査所に20年超も在籍し、原発の立地審査に携わってきた衣笠善博氏(67・東工大名誉教授)という人物だ。『福島原発事故の「犯罪」を裁く』(共著)などの著者で作家の広瀬隆氏は、衣笠氏が杜撰な審査を主導してきたと指摘する。
「私は福島第一原発事故を招いた当事者たちを、『業務上過失致死傷罪』で東京地検に告発しました(8月1日、受理)。その被告の一人が活断層の審査に携わり、活断層を短く見積もったり、なかったことにして審査を骨抜きにしてきた衣笠氏です。'09年に行われた福島第一原発の耐震安全性評価(バックチェック)をはじめ、彼は日本中のほとんどすべての原発の審査に関わっています」
衣笠氏が審査に携わった東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)は、'07年に直下型地震に襲われ、放射性物質を含む水が漏れた。また、中国電力の島根原発3号機の設置審査の際、8kmと値切った島根原発周辺の活断層は、後に22kmに訂正されている。この審査で衣笠氏は中国電力を技術指導するとともに、国の審査にも関わっている。申請する側と審査する側の一人二役を務めているのだから、公平な審査など望むべくもない。
また、衣笠氏は志賀原発の審査でもひとつながりの活断層を無理矢理3つに分けて評価し、想定地震規模を過小評価したと指摘されている。このため、'07年の能登半島地震では、志賀原発は〝想定外〟の揺れに襲われることになった。前述の福島第一原発のバックチェックでは大津波の可能性を指摘する声を無視し、周辺の断層の長さを〝値切る〟ことに終始した。衣笠氏は、現在も新潟県原子力安全対策課の技術委員会のメンバーとして活動している。杜撰な審査を続けてきた衣笠氏をつくば市内の自宅で直撃した。
---フライデーですが、原発立地審査の件で質問があります。
「は? 一切、答えられませんよ!」
---活断層の評価について・・・・・・
「(カメラマンに向かって)あなたは現行犯で、私の肖像権を侵したんですよ!」
実のある答えは得られなかった。
規制トップに原子力ムラの村長
そんな中、政府が新設する原子力規制委員会のトップに、原発行政を牽引してきた原子力委員会の元委員長代理、田中俊一氏(67)を据えようと画策している。「原発ゼロの会」の中心的メンバーで、衆院議員の河野太郎氏が言う。
「細野豪志原発担当相は、『原子力委員会は極めて情報公開に後ろ向きで問題があった』と認めている。それなのに、その幹部に規制を任せるというのは、あり得ない話です。田中氏は完全に原子力ムラの人間。国民をバカにした人事です」
また、田中氏は昨年原子力関連団体から、講演の謝礼として29万円を受け取ったことが判明している。本誌は田中氏を直撃したが、何一つ答えることはなかった。田中氏は8月1日、国会の所信表明で「活断層の評価で精査が不十分だった可能性がある」と語っているが、厳しい規制はできるのか。
フクシマの教訓は何一つ生かされず、責任を取る者もいない。どの原発が第2のフクシマになろうとも、不思議ではない。
「フライデー」2012年8月24・31日号より