五百旗頭氏は、神戸震災の経験をもち、財務相とのパイプがあることが買われて復興構想会議の委員長に推挙されたのではないかと言われたが、予想通り、第一回の会合から増税の話が持ち込まれ、神戸震災のご経験を踏まえた議論が行われたようである。
神戸震災の経験を生かすことはそれなりに意義があるが、しかしそれには大きな限界があることも認識すべきである。
以下はロイターの氏へのインタビューであるが、これを見ても分かるように、氏は、東北が深刻な原発震災の被災地であること、半径30キロ圏内をはるかに超えたあちこちのスポットで、空気が、水が、土壌が、農作物が、牧草が、海草が、そしてそこに生息する豊かな海の資源が今も汚染され続けているという現実に全く目を向けていない。
もし福島に原発さえなければ、そこを特区として、地元の農業や水産業などの復興をめざすという考え方は妥当なものと言える。政府は放射能汚染地域をできるだけ極小に留めようと必死になっているが、現実問題として高濃度の汚染は首都圏を超えて神奈川や静岡の各地にまで及んでいるのである。福島第一の水素爆発の直後、風は南方向だけではなく、北西方向にも吹いたと言われている。県境に放射能物質をさえぎる強力なバリアでも存在しない限り、福島市や県境をはるかに超えて北西方向に飛散し、いくつかの地点に落ちたという可能性は否定できない。(これを風評と決め付ける前に、東北地方全土で、もっと細かく緻密に土壌、大気、海水、地下水、下水、植物、水産物の放射能測定をし、そのデータを毎日公表すべきであろう)。
放射能物質の影響という重大かつ本質的な問題に対して何も答えない復興構想会議とは何なのか。
チェルノブイリを上回ると言われている放射能汚染の実態を踏まえない構想会議、産業の復興とその財源のことばかりが焦点化され、いちばん大切な国民の命、健康、安全というものが全くないがしろにされているのではないか。国民の安全と健康があっての産業でなければならないのではないか。このような中途半端な構想計画に多額の財源が投入され、結果的にそれが入れ仏事にならないことを心から願いたい。
神戸の震災から、東北震災まで幸いにして15年の年月が、準備期間があった。しかし地殻活動が盛んになっていると言われている今、次の大震災までに果たして17年の時間的猶予があるのだろうか。政府はその次の事態にも備えておかないと、近い将来日本のどこかで大きな震災が起きたときには、復興どころか救援・復旧財源さえ枯渇してしまって、手も足も出ないという最悪の結果を招きかねない。
財務省はその時々で必要になれば、国民から税金をしぼり取れば済むと安易に考えているのだろうが、もはや国民から徴収した血税は一銭も無駄に使われるべきではない。地に足のついたヴィジョンのない増税論は許されてはならないのである。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21654720110611?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
インタビュー: 震災復興は特区的対応と十分な資金必要=五百旗頭氏
[東京 11日 ロイター] 政府の東日本大震災復興構想会議の五百旗頭真議長(防衛大学校長)は、ロイターのインタビューに応じ、震災復興を通じて東北地方が第1次産業や工業製品、自然エネルギーなどの分野でフロントランナーに浮上し、日本全体の再生につながっていくような復興に取り組むべきと語った。
そのためには、規制緩和などで被災地を「特区的な対応」にするとともに、復興資金を「渋らずに、しっかり出すことが重要」と指摘。財源については、復興債を発行した場合でも、将来世代の負担増は回避しなければならないとし、復興需要の盛り上がりの中で、復興債の償還財源を確保していくべきとの考えを示した。
復興に向けた2011年度第2次補正予算が今夏に成立すれば、秋にも復興需要が出てくると見通した。復興構想会議は6月末に第1次提言をまとめる予定だ。
震災復興への迅速な対応が求められている中、菅直人首相の退陣論も絡んで政治が迷走している。五百旗頭議長は、大震災という国難における与野党結束の重要性を強調。震災対応や社会保障と税の一体改革など山積している重要課題の解決には「大連立が望ましい」とも指摘した。
インタビューは10日に実施した。主な内容は以下のとおり。
──「創造的復興」とはどのようなものか。
「阪神・淡路大震災の反省に立っている。あの時は復旧にはお金を出すが、それ以上のことに国民の税金は使わないということだったが、それは大変な間違いだった。例えば神戸港はコンテナ埠頭で世界をリードしていたが、12メートルしか深さがないため、15メートル以上の深さをもった釜山などに競争で負けていくことになる。このように復旧だけでは極めて不合理で、誰のためにもならないとの経験がある」
「今回は、東北地方ができることなら、フロントランナーに浮上し、日本経済全体を引っ張ってくれるような前向きな復興をやるべきというのが基本的な考えだ。世界一の漁場があり、コメやくだものだって海外でもやや高いが品質がいいと評判だ。サプライチェーンなど工業部門や観光業も農漁業に劣らない。東北の持っている強みを単に元に戻すだけではなく、先端的な日本のブランドとして押し上げることが大切。これが日本全体の再生につながる。原発の継続かどうかは別に、自然エネルギーをもっと強化し、技術革新を促しながら、東北地方をモデルにしていくことができないかと考えている」 続く...
──具体的な取り組みは。
「三陸のリアス式海岸は素晴らしい漁場。今まで200数カ所あった港をすべて元に戻すべきかというと、合理的な集約が必要。世界的な水産業の中心になるような港をいくつか整備しなければならない。いままで細々とやっていたところを復旧するとともに、国際競争力を持つ三陸の水産業を伸ばす必要がある」
「今回の津波災害への対応では、現行制度のツギハギを超えて真正面から考え、津波災害基本法という新たな法律をつくるくらいの発想が大切だ。津波の被災地・被災者が希望を持って新たなコミュニティーをつくれる特区的な対応をまずやり、3─4年で一般法にして、将来の津波被害に対応できる枠組みが必要だ」
──復興資金と財源について。
「内容にもよるが、多くの研究機関が復興には16─20兆円というお金がかかると予測しているようだ。被災3県の財政状況も厳しく、国が資金を出さなければ成り立たない。あまり渋らず、しっかりお金を出してやることが重要だ。2011年度第2次補正予算が夏に成立すれば、秋から積極的な建設が始まり、復興需要が出てくる」
「財源は、とりあえずは復興債を発行する方向に政治は動いているが、借金で将来世代につけ回しをすべきではない。復興債で復興需要をつくり、ブームを興し、そこから回収していくことになる。その際には3つの原則を考えている。1つは、全国民で支えるという連帯と分かち合い、2つ目は将来世代につけ回しをしない、3つ目は経済破綻をきたさないように聡明な対処をする、ということ。この中でのベストミックスが大切だ」
──復興債償還のための具体的な財源は。
「われわれが決めるべきなのか。デリケートな問題だ。3つの原則に立った場合、それぞれの財源のいい点、悪い点などをある程度、方向付けをして、考え方、国民が合意できる筋道を示すのが任務だ」 続く...
──政治が混乱している。
「復興については、与野党が協力を続けてもらわなければならない。『ノーブレス・オブリージ』(高き者の責務)という言葉があるが、政治的リーダーは高きもので、国益に対する責務がある。国難に際しては自分の政治生命とか党派性を優先してはいけない。震災から、まだ3カ月しか経たないのに政治休戦は終わりだと言って政争にふけるのでなく、しっかり国難に結束してほしい。(政治の枠組みとしては)福祉のための消費税の問題などもあり、一挙に解決しようと思ったら大連立が望ましい」
(ロイターニュース 竹中清 伊藤純夫 編集 宮崎大)