ドイツのメルケル首相は5月30日、2022年までに国内にある17基の原子力発電所をすべて廃止すると発表した。ドイツでは10年前に原発を全廃する方針が出され、メルケル政権がその延期を打ち出したものの、福島第一原発の事故で元に戻った。ドイツではチェルノブイリ事故で広範囲な汚染の被害が出て以来、左右を問わず反原発の世論が強く、今回の決定も既定方針の追認とみられている。
原発が危険だからやめようという気持ちはわかるが、その穴は何で埋めるのだろうか。ドイツの電力の20%以上は原発で供給されているが、これを再生可能エネルギー(太陽光・風力など)で埋めるのは無理だというのが専門家の見方だ。今でもドイツはフランスから電力を輸入しており、その電気料金はフランスのほぼ2倍。再生可能エネルギーの補助金が電気料金に上乗せされているためだ。これ以上、原発を減らすと、ドイツの代わりにフランスの原発の電力を使うだけである。
日本でも原発を新設することは当面むずかしいだろうが、「自然エネルギー」はその代わりにはならない。ソフトバンクが自治体と共同で計画している「メガソーラー」と呼ばれる太陽光発電所は、10基あわせても最大出力が数十万kWと原発の半分以下だ。実際に原発の代わりに使われているのは天然ガスである。東京電力は、この夏のピークに備えてガスタービン発電所の建設を急いでいる。その建設は数ヶ月ででき、1基で20万kW程度の発電が可能だ。
天然ガスは、これまでは中東の油田から採掘されるものがほとんどだったが、最近は岩盤の中から採れる「シェールガス」が採掘できるようになり、価格はここ3年で1/3になった。世界最大の埋蔵国はロシアだが、第2位はアメリカで、生産量ではアメリカが第1位である。化石燃料の最大の問題は、政治的に不安定な中東情勢に左右されることだが、アメリカが主要産出国だというのは大きなメリットである。
MIT(マサチューセッツ工科大学)の報告書によれば、世界のシェールガス埋蔵量は160年分と推定されている。アメリカでは、2050年までに天然ガスが石炭をほぼ代替し、二酸化炭素の排出量は50%減るだろう。天然ガスのコストは現在でも石油のほぼ半分であり、自動車の燃料としても有力だ。これは石油メジャーの戦略も変え、彼らもシェールガスに投資を始めている。
天然ガスの価格が低下したため、コンバインドサイクルと呼ばれる発電技術が注目を集めている。これはガスタービンで発電するとともに、その排熱を使って水を蒸気に変えてタービンを回して熱効率を上げるものだ。東京都の猪瀬直樹副知事の紹介している川崎天然ガス発電所(東京ガスとJX日鉱日石エネルギーが設立)では、ガスタービンで38%、排熱による蒸気タービンで20%、合わせて58%の発電効率を実現している。出力は42万kWと火力発電所なみだが、熱効率は火力の1.4倍だ。小型で環境汚染が少ないので都市に立地でき、建設費も1基250億円と石炭火力より安い。
東京都内の太陽光エネルギーは、わずか1万7000kW。原発1基分の100万kWを出そうと思うと、山手線の内側いっぱいに太陽光パネルを張らなければならない。もちろん再生可能エネルギーの利用できる地域では進めるべきだが、都市では立地する土地がない。電圧や周波数の管理が必要なベースロードと呼ばれる基礎的電力は火力でまかない、天候に左右される再生可能エネルギーはピーク時に備えるピークロードとして使うのが現実的だろう。両者を組み合わせて、雨の日には太陽光の不足分をガスタービンで補うといった複合型の発電プラントも可能だ。
ガスタービンの分野では三菱重工が世界最先端の技術をもつなど、日本のメーカーも有望だ。企業の省エネ投資の意欲は強いので、発電と送電の分離によって新規参入を促進する制度改革を行えば、製造業が工場でコジェネレーション(熱電併給)を行うことも容易になる。ITで制御して消費電力を節約する技術も発達している。電気は電力会社のつくるものと考えるのではなく、製造業やIT企業が参入してエネルギー効率を高めるイノベーションを実現すれば、日本経済の新しい成長エンジンになる可能性もある。