2011年10月10日月曜日

増税の前にやるべきことは?

 かれこれ20年間、この国の経済不況は一向に改善の兆しすらない。ごく僅かな富裕層にとっては関係のない話かもしれないが、経済格差は年々広がるばかりであるし、地域経済は疲弊し、贔屓格差の広がりもとどまるところを知らない。

分野によっては世界最前線の技術をもち、国民の多くは、まじめに有給休暇もろくに取らずに働き蜂のようにせっせと働きづめに働き、わずかな給料から、税金を収め、年金を支払い、言われるがままに電気料金も出し、生活を切り詰め、身を削って貯蓄をし続けるも、生活は少しも豊かにならないばかりか、将来不安な現状は年々、その深刻さを増すばかりである。

民主党は既得権益の死守のために、国民の血税を食い荒らしてきた霞が関にメスを入れるということを公約して立ち上がった政党であった。日毎政治には無関心な10代、20代の若者までが、選挙時には目を輝かせた。

それから一体何十年の時が流れたというのか。

舌の根も乾かぬうちに、民主党政府は政権維持のために、官僚の手先になって踊り出すパペット(魁蕾)に成り下がってしまった。

この政権を信じて改革を志した官僚は孤立させられ、ついに退職へと追いやられた。マニュフェストを実行しようと獅子奮迅の努力をした志の高い大臣に対しても、誰もしっかりサポートしようとはしなかった。

官僚天国は、政権が変わろうが、世界の科学史にない未曽有の原発災害が引き起こされようが
まったく微動だにしないようである。

アラブ諸国でも、イギリスでもアメリカでも若者による抗議行動が起こっているが、この国の若者の多くはまったくこの国の行く末について関心すら抱いていないようである。見つめれば見つめるほど絶望的になるから、目を逸らしたいという気持ちも理解できないではない。

多くの国民、とりわけ若者層が問題意識を持たないことは、霞が関にとってこれほど好都合なことはない。増税も、保身のために大罪を犯した私企業を組織ぐるみで庇い立てすることも、サボタージュをし、横車を通せば、デタラメがすべてまかり通るのであるからーー。

しかし、このような国の在り方を続けていていいのだろうか。覇気のない内向き思考の無難な若者を大量生産する活気も希望もなにもない国を作った責任は重大である。

先の見えない経済不況の中で、所得税や消費税を増税すれば、国民の消費が落ち込むのは当然の帰結である。これ以上にこの国を冷え込ませ、なにもかもがフリーズしてしまう前に、政治家が、官僚たちがやるべきことは、山のようにある。

以下元官僚の高橋氏のエッセイである。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/22412

現代ビジネス
 高橋洋一のニュースの深層          2011,10.10


借金は税金で国民に負担させ、資産は天下り先に温存ーー朝霞宿舎だけでない国有地売却を拒む「霞ヶ関の論理」
ギリシャは500億ユーロの資産を売却


先週10月3日付けの本コラムで朝霞公務員宿舎問題をとりあげた。ほかの先進国は公務員宿舎などまず持っていない。それでも必要なら民間に売却して、それを借り上げるのが基本だろう。
 朝霞についていえば、埼玉県にある他の公務員宿舎を売却し、民間が建て直し、それを借りればいい。わざわざ朝霞の森を切ってまで新設することはない。しかも、事業仕分けの凍結という結果を曲げてまで行う必要はまったくない。

野田政権の選択は、再凍結か被災者受入という条件で建設と書いたが、結局、3日の野田首相の判断は再凍結だった。再凍結より被災者受入で建設のほうがよかったと思うが、新設公務員宿舎に民間人が入るのを好まなかったのかもしれない。

まったく進んでいない公務員宿舎の売却

 また、凍結とともに「都心3区の公務員宿舎は危機管理用を除いてすべて廃止。16カ所で売却」という方針も表明された。

しかし、5年前の小泉政権下では、私が作成に深くかかわった「骨太2006」で、「今後10年間で国有資産の売却約12兆円」との方針を示し、公務員宿舎の売却収入は1兆円が見込まれていた。その時に公表された宿舎の「移転・再配置計画」では、都心3区の宿舎について、今回の野田政権の方向とほぼ同じものが出ていた。

同計画では、2006年1月現在、都心3区(千代田、中央、港)には33宿舎(1782戸)あった。これを2010年3月には16ヵ所を売却し、17宿舎(1531戸)へ、2017年3月には12宿舎(1215戸)へ減らすとしていた。また、この12宿舎は危機管理用など移転困難なもととしている。
5日の国会閉会中審査で、浅尾慶一郎議員(みんなの党)が、都心の公務員宿舎の廃止は骨太の方針2006と同じではないか、と質問したのに対して、安住財務相は、それは実現されなかった、だから私たちがやる、と強弁した。

しかし16ヵ所を売却する達成期限は昨年3月末であり、民主党政権になってからの話である。政権にいるのだから、売却が未達成の理由を明らかにして、再度計画を作っていなければいけない。
 財務省が宿舎を売却しないのは、宿舎管理のための公務員がいるからだが、公務員宿舎は一般の民間に比べて安いので、その差額がヤミ手当になっていてやめられないという指摘もある。

国有資産を売却し国債償還にあてればいい

 この公務員宿舎に限らず、国有財産など国の資産の売却はほとんど進んでいない。

2006年7月に閣議決定された「基本方針2006」では、国有財産については10年間の売却収入の目安として12兆円を見込むとともに、2015年度末に国の資産規模対GDP比の半減を目指し、国の資産を140兆円規模で圧縮することとしていた。

一定の政策目的のために保有している外為資金・年金寄託金等及び売却困難な道路・河川等の公共用財産はスリム化の対象としないが、政府資産については、真に必要な部分のみを厳選して保有するとされていた。

国のバランスシートを見ると、資産647兆円、負債1019兆円(2010年3月末)。資産がたっぷりある。資産の中には、国有財産37兆円、公共用財産145兆円などの他、現金・有価証券111兆円、貸付金155兆円、年金寄託金121兆円、出資金58兆円と流動性の高い金融資産が多い。このうち年金寄託金は将来の年金のためにとっておくとしても、貸付金や出資金などは天下り先の特殊法人に流れているのだから、それを民営化すればいい。そうすれば、天下り法人の廃止と国の資産のスリム化が一気にできる。

ところが、国の資産の売却はいっこうに進んでいない。下図は、国の資産のうち金融資産の対GDP比をOECD統計でみたものだ。ほとんど金融資産残高対GDP比は減っていない。
 
公務員宿舎に限らず国の資産は民間に売却して有効活用することは、民間経済の活性化になるばかりではなく財政再建にもなる。


国の資産の売却は資産サイドのスリム化になるが、国債償還に回せば負債サイドのスリム化にもなる。一般の企業がリストラの過程で資産と負債の両建てのスリム化が好ましいのと同様、政府でも好ましい。


500億ユーロの資産を売却するギリシャ

 しかし、日本の資産対GDP比は世界の中でも高いほうだ。しばしば、財務省は、バランスシートの負債サイドの債務残高対GDP比が世界一になっているというが、資産サイドの対GDP比も世界有数の大きさだ。負債サイドだけを強調して、増税による財政再建の主張するのは、資産サイドの天下り先を温存して役人が美味しい思いをして、借金だけを国民の負担で返せといっているのだ。あまりに虫のいい話ではないか。
 
日本でも、財政再建というのであれば、なぜ国の資産の売却の話が出てこないのか。役人の天下り先の温存といわれても仕方ないだろう。


増税の前にやるべきことといえば、世界で定番メニューは、国有財産などの国の資産の売却だ。

ギリシャの財政再建計画では国有資産売却(含む民営化)が盛り込まれている。2015年までに債務残高の15%になる500億ユーロの売却だ。その中には、 国営郵便局、水道会社、電力とガスの民営化・株式売却もあり、使われていない空港、古いオリンピック会場、ギリシャが誇る美しい海沿いの土地など国有資産の売却もある。ギリシャでの国有資産の売却規模は、日本で考えると150兆円の売却に相当する。

イタリアも同様に、債務残高の2.6%に相当する500億ユーロの国有財産売却がある。日本で考えると25兆円規模の売却だ。
国の資産の売却がこれまで進んでこなかったのは、民主党政権になって経済財政諮問会議が事実上休止したことも影響している。民主党は、国家戦略会議をスタートさせるようであるが、その際、経済財政諮問会議がこれまでやってきたことをレビューすべきだ。


 そうでないと、公務員宿舎問題のように、野田政権は財務省がかつて約束した二番煎じに満足してしまうことになる。特に、国の資産の売却は、増税の前に行うべきだ。