「応急措置」で再稼働へ
あとは枝野氏が地元に足を運んで「理解」を求め、5月にも再稼働に踏みきる見通しだという。
あれだけの歴史的事故を起こしておいて、小手先の「安全評価」「審査」「確認手続き」で再稼働に踏み切ろうとしているのだから、国民が恐怖感を抱くのは当然だろう。
「ストレステストは、まったく不十分です。たとえば、水素漏出対策はほとんどないに等しい。水素は他の分子に比べて小さいから、少しの隙間でも漏れやすいんです。溶接部分などで腐食が進行しているところに、巨大な地震動が来たり、ガスケット(固定用シール)の材質が劣化してダメになったり、高温高圧でフランジ(継ぎ目)にひずみが生まれることも考えられる。
また、送電鉄塔が倒れてしまった場合、どうするのかという備えもない。そのあたりを、何度国会で質問してもまともな答えが返ってこないんです」(元原子力技術者の吉井英勝代議士)
この水素漏出の問題以外にも、大飯原発ではフィルター付ベント装置や免震重要棟が設置されておらず、いま慌てて準備を進めているが、完成するのは早くても'15年度以降になるという。
それ以外に、数十mの津波に耐える防潮堤や、恒久的な非常用電源の問題も心配されている。しかし原子力安全・保安院、原子力安全委員会、経産省という「原子力ムラ」の面々は、それらの問題に「応急措置」を施しているから問題ないとして、再稼働を強行しようとしている。
NGO「e-みらい構想」代表・長谷川羽衣子さんは避難計画の不備も指摘している。
「とくに京都北部の方が言っているんですが、事故発生の際の、避難経路が確立されていないんです。細い道が一本しかないというルートばかりで、皆さん車で逃げるだろうし、もしものときは大渋滞になってしまう。ストレステストの評価も福島原発以前の基準でやっていますし、納得がいきません。
今後、枝野さんが福井入りする話が出ていますから、そのときは抗議行動に行くことを考えています。県庁をヒューマン占有したりとか、ロビーに座って無言で、非暴力抗議行動をするとか。
いまも国民の多くが、原発を止めたら電力が足りなくなると思っていますが、ドイツでは節電すれば原発一基分の電力が浮くという考え方がある。環境省はなぜ、そういうことをもっと打ち出さないのか疑問です」
チーム仙谷が動いている
今回出された「暫定安全基準」を「十分だ」と評価した福井県の「原子力安全専門委員会」委員長の中川英之・福井大学名誉教授に、本誌はその見解を細かく聞いた。
中川氏は工学部長時代、福井大に原子力を専攻する学科を作った中心人物だ。
「大飯再稼働の安全基準は3つあり、1番目の緊急対策や応急対策は、だいたいクリアしている。2番目も原子力安全・保安院が妥当と認め、原子力安全委員会も検査そのものは妥当と認めている。
3番目が問題ですよね。これは技術基準の前倒しと言われていますけど、30項目、いずれきちっと満足する必要があります(現在はできていない)。免震重要棟は作るのにそれなりに時間がかかるというのがあります。それに代替するものをどうするか。
また大飯の場合、格納容器が非常に大きいので、水素が充満する可能性は低いんですが、(水素漏出の)対策をどうするか。それから電源。将来的には空冷式の大型ディーゼル発電機を設置する計画になっているんですが、(完成までに)かなり時間はかかる。3~4年はかかるんですね。その間の代わりになるものは設置できているんですが。
それから、施設を動かすソフト面。人の教育とか、マニュアルをきちんとしていくべきだと思っています。私としては、現状でそれらの対策は十分だと思いますが、事故時に安全な方向にちゃんと生きて動いているということが確信できれば、安全性が担保できていると言えると思います」
免震棟、大型発電機などの設置には数年かかる。それまでの応急対策を施しているというのだが、これらの対策で百パーセントの安全が保障されるのか。「おおむね安全」で、再稼働に踏み切って大丈夫なのか。
不安だらけの大飯原発再稼働を牽引するのは、政府・民主党の「5人組」と言われる勢力だ。枝野氏に加え仙谷由人政調会長代行、古川元久国家戦略相、斎藤勁官房副長官、細野豪志原発事故担当相の5人。
なかでも仙谷氏が中心人物で、「チーム仙谷」と呼ばれることもある。枝野氏は、仙谷氏の意向に従う形で発言・行動しているという。
4月9日深夜、枝野氏が新聞各紙の担当記者と行ったオフレコ懇談のメモを本誌は入手した。
「大飯原発では大きな地震や津波で外部電源が喪失する事態になっても、炉心溶融には至らないということを、二重、三重、四重に安全性を確認しているところ。
昨年3月11日までの考え方であれば、これで終わっていたと思う。しかし、安全性は確認されるがさらにそれを高めるという観点から、免震重要棟の建設やベント管にフィルターを付ける工事を行う。フィルターに関しては(大飯は)福島と原子炉のタイプが違う。基本的にはベント(原子炉内圧力の排出)に至るようなことは重大な事故でも考えられない。福島とは全く違うタイプの原子炉だ。(フィルターを)使うことはほとんど想定できないけど、用意しておく。念には念を入れてということで、計画させた。免震重要棟も、さらに万全を期すというか、なくても大丈夫だろうけど、作るように関電に指示した」
枝野氏の真意は、このオフレコメモを見れば、明らかだ。
「電力不足」は本当か
枝野氏、仙谷氏らはなぜ再稼働へ向け、突っ走り始めたのか。
ある民主党中堅議員が、絶対匿名を条件にこう話す。
「5人組が再稼働を急ぐのは、経団連を中心とした財界の意向が強く反映している。なかでももっとも熱心に活動しているのが仙谷さんだ。
仙谷氏はなぜか、政府の関係閣僚会議にオブザーバーとして出席している。あれは議論の流れが再稼働から逸れないように、監視しているんでしょう。特に発言が二転三転する枝野氏に目を光らせている。人権派の弁護士だった仙谷氏が原発再稼働に動いているのは、現政権内で、財界とまともに話がつけられるのはオレしかいない、という自負があるから。政権をウラで支えているのはオレだということでしょう。
仙谷氏はこれまで、公務員制度改革を手がけたり、鳩山政権では首相に代わってダボス会議に出席するなどして権力を誇示しようとした。昨年の代表選出馬は断念したが、小沢氏の力が失墜したいま、党内最高実力者の地位を固めつつあるんです」
国民からすれば、また仙谷氏か!という印象だが、ほかに人がいないのが現在の民主党。
仙谷氏は、党内の「東電・電力改革プロジェクトチーム(PT)」の会長を務めているが、初会合が開かれたのは多くの議員が地元に戻っている2月24日の金曜日だった。結局、側近議員をPTの幹部に据えて主導権を握ってしまっている。
PTの事務局長・大塚耕平氏は日銀出身で、参院愛知選挙区選出。中部電力労組からパーティ券を買ってもらっていたことが判明している。事務局次長の小川淳也氏、玉木雄一郎氏はともに香川県選出の若手代議士で、元キャリア官僚。選挙区が近い仙谷氏の側近として知られる。
党内にはもともと原発再稼働に反対する「原発事故収束対策PT」と、推進派の「エネルギーPT」の二つの議連があったが、仙谷氏が「東電・電力改革PT」を立ち上げたことで再稼働派が優勢という勢力図になった。
「仙谷氏は今年1月末、東電のメインバンクである三井住友FGの奥正之会長ら、メガバンクのトップと密かに会談したことがわかっていますが、東電への融資の見返りとして、メガバンク側から『原発の再稼働と、電力料金の値上げ』を条件として突きつけられたという。銀行側は、再稼働と値上げなしでは東電の経営再建はあり得ないと考えているんでしょう。東電が倒産すれば、当然融資も社債も焦げ付くわけですから、銀行側としてはそうならないための保険をかけたわけです」(別の民主党代議士)
一方、民主党議員のなかには、表立って再稼働に反対しにくいという事情もある。
「党内には電力労組から支援を受けて当選している議員が数多くいます。
私自身はやっていませんが、民主党の議員のなかには、選挙の際、労組に、『原発を推進します』という念書を書かされたという者がいる。実際に書いたという議員から聞いたことがあります。次の選挙のことを考えると、『再稼働反対』を大声では言いにくいでしょう」(前出・中堅代議士)
地元のおおい町長や、福井県知事も、現段階で再稼働には明確に反対の意思表示をしていない。
今後、枝野氏の訪問など段取りを踏めば、再稼働容認へ傾く可能性が高い。
「関西電力は、今夏20%近く電力が不足する可能性があると報告していますが、実は原発が止まる前から、関電は発電力が不足し、北陸電力や四国電力から融通してもらっていたんです」(全国紙関西駐在記者)
オフレコ懇談では、枝野氏すら「関西電力の報告した数字はもっと精査する必要がある」と話している。
再稼働を主張する大新聞、メディアも多いが、事故が起きたとき、どう責任を取るのか。「おおむね」でなく「絶対」安全が確認されない限り、再稼働すべきでない。それがフクシマ以降の国民のコンセンサスだろう。
「週刊現代」2012年4月28日号より
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