【社説】2011年11月26日
TPP交渉 早く対米布陣を整えよ
野田佳彦首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加方針を表明したが、いまだに交渉態勢が整っていない。これでは、牛肉の輸入規制撤廃などを迫ってきた米国との交渉が危うくなる。
TPPは二〇〇六年の発効時の四カ国に米国や豪州などが新たに加わるため、九カ国で拡大交渉が行われている。首相が二十一の国・地域で構成するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で参加方針を表明したことに触発され、カナダやメキシコも手を挙げてきた。
米国は自らが主導する「親米貿易圏」の広がりに自信を深めたのだろう。日本の表明に瞬時に反応した。カーク米通商代表部(USTR)代表は牛海綿状脳症に感染した米国産牛肉の流入を防ぐ日本の輸入制限撤廃や、自動車の市場開放、日本郵政への優遇措置見直しをたたみかけてきた。
日本が参加するには九カ国と事前交渉し、同意を取りつけねばならない。米国の要求は日本の本気度を試すリトマス試験紙でもあり、交渉は事実上始まっている。日米首脳会談では、オバマ米大統領が牛肉問題で「科学的知見に基づいて解決を」と首相に迫った。
USTRの次席代表も来日し「日本の参加が交渉を遅らせてはならない」と牽制(けんせい)した。本交渉を前に、日本は押されっぱなしだ。
首相は民主党の両院議員懇談会で「美しい農漁村を守り抜く」と理解を求めたが、党内対立はなお解けていない。国内調整もできずに、例外なき関税撤廃が原則のTPP交渉を乗り切れるのか。通商交渉は、より自国に有利に働く貿易のルールを築く闘いだ。
米国にはTPPを足掛かりに、関税ゼロなど高い水準の自由貿易圏をAPECにも広げ、十三億人の巨大市場、中国を同じ土俵に引き入れる壮大な戦略がある。
モノに加え、医療など二十一分野で輸出を倍増させ、国内雇用を増やすもくろみなのに、日本は交渉の布陣すらできていない。民主党の前原誠司政調会長は省庁横断チームの編成を力説したが、だれが省益優先の縦割り組織を束ねるのか。政治主導を唱えるなら、交渉を官僚任せにせず、政治家も出番ではないのか。
日本の交渉入りはオバマ政権が連邦議会から交渉権を得なければならず、来春になる見通しだ。それまでに攻めの姿勢で交渉に臨む布陣を敷かないと、コメの例外扱いなど、国民を守る貿易ルールが遠のくことを首相は知るべきだ。
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