一部のオピニオンリーダーたちは、玄人専門の雑誌に投稿したり、本の出版をしたりしては、いるけれども、公の場で国民に対して広く原発に対する意見表明をする文化人の姿は、ほとんど見られなかった。
多くの文化人は福島原発の事象や原発の存続、電力会社やメディアの問題について、貝のように沈黙を守ったままであった。特に震災直後から、日本国内で声を上げていたのは、大衆週刊誌と一部の志の高いジャーナリストと素人の一般ブロガーぐらいのものであった。
東電や情報を操作する政府に楯突くことを一言でも言えば、即時「風評被害」と斬り捨てられ、民主国家とは思えないような言論統制が行われる中、海外メディアが隠された情報を次々と開示し、一部ジャーナリストや一般市民がめげずに声を上げ、露払いを続けた甲斐あって、震災直後は原発推進に諸手を上げていた国民の多くが、反対意見に転じるという世論の逆転劇が現実のものとなった。
原発再稼働賛成派の野田氏ですら、さすがにそうした世論の動きに鈍感ではいられず、首相就任挨拶の際には、玉虫色であったとはいえ一応脱原発依存の意見表明を行った。その露払いが終わった絶妙のタイミングで、大江健三郎氏らが登場したのである。
文化人が原発関連番組に登場しないのは、原発推進派のメディアに、自分たちやスポンサーにとって不都合な意見をあえて電波に乗せたくないという強い意思が働いているからであろう。しかし原因はそれだけでもなさそうである。
日本社会において脱原発・反原発・東電・メディア批判は、タブーである。現に6月、脱原発運動に率先して参加していた俳優はドラマからの降板を余儀なくされた。首相は、脱原発宣言をしたとたんに四面楚歌になり梯子を外された。発送電分離の必要性を主張した経産官僚は、窓際に追いやられ、原発の危険性を指摘する専門家は心ない人達から異端扱いを受けることとなる。メディアや国、東電などの大企業を敵に回せば、制裁を受けるという見せしめが行われている以上、よほどの信念と勇気を持たない限り、二の足を踏んでも当然であろう。
そんな中、村上春樹氏は原発震災から3ヶ月後目に、世界の人々に向けて単身で反原発の強い意思を表明した。
大江と村上、文学の評価は、どちらが高いのかわからない。しかし少なくとも、単身でしっかりと、日本社会が決して容認しているわけではないような反原発の明確なメッセージを、あの時期に世界に向けて発信したという勇気と、文筆家としての覚悟や社会的責任の自覚という点においては、大江氏より、村上氏の方に軍配をあげたい。
遅いながらも、しっかりと再稼働反対の意思を明らかにした大江氏らも、震災後半年にもなるのに、未だ様子見をしているような他の多くの文化人に比べれば、よしとしなければならないのかもしれないけれどもーー。
http://www.asahi.com/national/update/0906/TKY201109060665.html
「原発再稼働やめて」大江健三郎さんら、野田政権に声明
ノーベル賞作家の大江健三郎さんらが6日、東京都内で記者会見を開き、「経済活動を生命の危機より優先すべきではない」として、野田政権に停止中の原発を再稼働させないことなどを求める声明を出した。
大江さんのほか、作家の落合恵子さん、鎌田慧さん、日本弁護士連合会の宇都宮健児会長が出席。大江さんは「原発を廃炉にするという震災直後の国民的合意が、すでに失われつつある。事故を二度と起こさせないために、新しい法律を作るような動きを市民が起こさなければならない」と訴えた。
大江さんは音楽家の坂本龍一さんらとともに、脱原発への政策転換を求める1千万人署名を呼びかけている。19日には東京の明治公園で、5万人規模の集会を開く予定。
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