一時期は、フクイチの原発災害による高濃度の放射能漏れによる魚介類への影響が大きく取りざたこともあったが、今年の春以降、とりわけ9月以降ほとんど全くといっていいほど、ニュースにも取り上げられなくなってしまった。うっかりこんなことを書くと、たちまち「風評をまき散らしている」と言論弾圧を喰らいそうだ。
しかし何しろセシウムの流出量が5600兆ベクレルにものぼる、とてつもない量であったこと(読売、3・06・2012)を思えば、それが単純にすべて海流に乗って太平洋にすべて拡散されていったなどとは到底考えにくい。森林に落ちた高濃度のセシウムは雨風や雪解け水とともに大地にしみ込み、地下水や河川とともに海に流れ出ることもありうるだろうし、発電所の近辺の海底土に混ざり、沈殿したままになっていることを完全に否定することは誰もできないのである。原発周辺の海底でプランクトンを食べて生育しているような魚は食物連鎖で汚染されるに違いない。
ところが、ニュースで報じられるのはやれ今年も秋刀魚の季節が来ただの、牡蠣の養殖がどうだの、皆で東北の魚を食べに行こうだといった話題ばかりである。日本近海における魚介類の放射能汚染の話題にふれることは、この国ではあたかもタブーであるかの如くである。
震災から1年間ぐらいの間は、Blue Water Worldのウエブサイトが、海洋汚染の記事を次々に掲載していたが、3月を過ぎてからブログの更新が激減し、特に今年の夏以降はめったに更新されていない。日本政府は、グリーンピースによる海洋調査を許可しなかったし、入ってくるのは、遠いアメリカの科学者の発表ばかりである。
ここに来てWSJが放射線物質に汚染された魚介類の謎という記事を掲載しているが、これもアメリカの研究者による発表で、これまで海洋のセシウムは希釈され、魚介類へのセシウムの蓄積は問題にならないとしていた東大の海洋学者の意に反して、未だに海底から高濃度の汚染に晒された魚介類があることを明らかにしている。これも日本政府が発表したデータに基づいて分析したものにすぎない。
前にこのブログでも引用したように、魚は流水できれいに洗った後、内臓も鱗も骨皮も全部取り除き、きれいな身にしておろしたものの放射線量を測っているそうだから、「ほとんどの魚介類が低線量」という発表の真偽の程は、はなはだ疑わしい。
そして当事者の東電は、なぜか魚介類への影響については、「未だ調査中で評価を行っていない」という。海洋国日本の最良の漁場で、魚介類が放射能漏れによって、どんな影響を受けているのかということは、消費者の健康・安全に関わる重要な問題である。
震災後1年7ヶ月以上立つというのに、「未だ調査中」とは、一体どういうことなのか。東電は国有化され、もはや私企業としての体をなさないのならば、何をおいても、公共の利益を、高い代償を支払わされてきた消費者の健康・安全を最優先すべきではないのか。
以下WSJの記事とBlue Water Worldのウエブサイトを転載する。
http://jp.wsj.com/japanrealtime/blog/archives/15044/?mod=Center_jrt
【フクシマウォッチ】放射線物質に汚染された魚介類の謎
昨年の福島第1原子力発電所の事故による近海海洋生物への影響をモニターしている科学者にとって、1つの驚くべき発見が目につく。大量の放射線物質が海に放出された炉心溶解事故からゆうに1年以上が過ぎているが、同発電所の沖合で獲れた魚介類のなかには依然として極端に高い放射線物質の水準を示すものがあるのだ。
これは魚介類が、放射線物質の汚染にさらされ続けていることを意味するにちがいない、と米マサチューセッツ州ウッズホールにあるウッズホール海洋研究所の海洋化学者ケン・ブッセラー氏は26日号の科学誌『Science(サイエンス)』に書いている。
日本の農林水産省から定期的に公開される魚介類のデータを調査してきたブッセラー氏は「1年以上前とちょうど同じように魚介類が(放射線物質の)セシウム134と137に汚染されているという事実は、セシウムが依然として食物連鎖の中に放出されていることを示唆している」と書いている。
これは多くの科学者の予想に反している。
昨年3月11日の事故で大量に放出されたセシウム137の半減期は30年だ。これは土地の汚染がいつまでも続くという最大の懸念の1つだ。だが海の中では容易に分解し、海流によって希釈される、と東京大学海洋研究所の植松光夫教授は指摘する。ブッセラー氏は、海水魚は淡水魚ほどにはセシウムを筋肉組織のなかに蓄積させない傾向があり、再度放射線物質にさらされなければ、セシウムは徐々に海水で希釈されていくはずだと書いている。
これらの理由から、多くの海洋生物学者らは福島第1原発が放射線物質のセシウムの放出を停止すれば、魚介類にセシウムが蓄積され続けることはないと考えていた、と植松氏は言う。日本政府のデータは福島第1原発近くで獲れた魚介類のほとんどは実際、放射線物質が比較的低い水準であることを示している。ただ、一部の魚介類――多くは海底で生活をするもの――の極端に高い水準が謎となっている。
福島原発を運営する東京電力は、原発施設の海側にあるコンクリートの堤防に入った亀裂をふさぎ、太平洋に面した方の施設の周囲にカーテンのようなスクリーンを設けるなどして、第1原発からの放射線物質漏れを防ぐために懸命に取り組んできた。
だが、植松氏は川や地下水といった多くの未検知のルートから放射線物質が海に流れ込んでいる可能性を指摘する。汚染された土が川に落ち込み、水の流れによって海まで運ばれ、潮の干満によってゆっくりと沖へと流される、と植松氏は話す。『サイエンス』誌でブッセラー氏は、海底の沈殿物に含まれるセシウムの検出報告があると指摘している。これが継続する汚染の源となっている可能性もある。
セシウムは強いガンマ線を放出しており、がんの原因になるとみられている。
東電は、海水や海底土については汚染の低下が確認されているが、魚への影響については現在調査を続けているところで、まだ評価を行っていない、と述べている。
福島第1原発は非常に高い放射線物質の水準から、原子炉建屋内の多くの場所が依然として立ち入り禁止となっており、東電は築40年の原発を解体するうえで困難に直面し続けている。作業員たちは依然として損傷を受けた原子炉の状態をつかみ、さらなる放射線物資の漏出を防ぐことに手探りで対応している。また、来年末までに崩壊しかかっている原子炉建屋の使用済み燃料棒の移送を開始できるよう取り組んでいる。
記者:Mitsuru Obe
原発・放射能情報
Blue Water World
マリン情報サイト「ブルーウォーターワールド」では、東電福島第一原発事故による放射能汚染の状況と対策をお伝えし、放射能を正しく怖がるための情報を日々発信しています。特に注意すべきポイントは被曝放射線の積算量、土壌汚染、内部被曝(食物・吸気の放射能濃度)です。