国民の大半は「再稼働」なんてあり得ないと思っているのに、永田町ではなぜか既定路線のように「再稼働」に向けて進んでいく。このギャップの理由を知れば、政治家の身勝手さに驚くに違いない。
献金してもらっているから
「原子力ムラというものが、いかに政界に根を張っているかを見ると、それは電力会社や関連労組から支援を受けている議員が存在するというような単純な構造ではありません。たとえば、原子力発電所を再稼働させたいのは電力会社だけでなく、原発を造るメーカー、その下請け、工事を行うゼネコン、ウラン輸入に関わる商社、さらにそれらの企業におカネを貸している金融関係など多種多様であり、各々の業界から支援を受けている議員がいます。
また、それに加えて官僚出身の議員、特に民主党に多い経産省出身者には、産業界の要請もあって、原発を推進すべきという考えの人が少なくない。全員がそうだと言うつもりはありませんが、基本的にそういう業界や官僚機構の意を受けた議員が、3・11以降も原発を推進したい人たちだと考えていいでしょう」
こう語るのは、民主党内で「脱原発」について積極的に発言している谷岡郁子参院議員である。
福井県の大飯原発再稼働問題について、野田佳彦総理は「私の責任で判断する」と発言。仙谷由人政調会長代行、枝野幸男経済産業相、細野豪志原発事故担当相、古川元久国家戦略担当相、齋藤勁官房副長官の「5人組」も節電要請が始まる7月2日より前の再稼働に向け必死だ。特に、仙谷氏などは「全原発を停止すれば、日本が集団自殺をするようなことになってしまう」と語り、多くの国民の反発を呼んだ。
なぜ、野田政権はあれだけの事故を経験しながら、いまだに原発再稼働にこだわるのか。政界で原発推進議員は誰で、彼らは何を考えているのか。
まず大前提として、1955年に原子力基本法が成立して以来、日本政府は自民党政権だろうが、民主党政権だろうが、基本的に原発推進。見返りはズバリ、「カネと票」だ。
自民党政権時代は電力会社と、電力各社で作る電気事業連合会(=電事連)が献金や選挙の集票マシーンとして政権をバックアップ。'09年の政権交代以降は、その労組が同じように民主党を支援してきた。
「たとえば、電力会社は電気料金を値上げしてもらうために自民党に献金を行っているという世論の批判を受け、オイルショック以降、企業献金を止めました。しかし、実際には各電力会社の役員が、個人献金の形で自民党に献金を続けてきたわけです。その結果、自民党の政治資金団体である『国民政治協会』が'09年に受け取った個人献金のうち、実に7割以上が東電など電力会社役員からです。
そして、民主党には電力各社の労組である電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)の政治団体とその関連団体から、党本部や所属議員に'07年~'09年の3年で約1億円、'10年にも党の県連、国会議員、地方議員に約1億2000万円の献金が行われています」(電力業界担当記者)
ここに東芝や日立製作所といった原発メーカーや、電力を大量消費する鉄鋼メーカーなどからの献金も加わる。そして、いざ選挙となれば、これら大企業の労組が組合員の票を取りまとめ、「原発推進に理解のある議員」を国政に送り込むよう奔走してくれる。
'10年の参院選でも民主党は、輿石東幹事長、蓮舫前行政刷新担当相、田中直紀防衛相、北澤俊美元防衛相、江田五月前参院議長、柳田稔元法相、福山哲郎元官房副長官ら47人が電力総連が応援する候補者として機関紙に顔写真入りで取り上げられ、ほぼ半数の24人が当選している。
常識的に考えれば、労組が会社側の意のままに動くことを不思議に思うかもしれない。まして、原発で働くことは、労働者にとって放射能汚染の恐怖に晒されることと同義。労組が先頭に立って「脱原発」を叫んでもおかしくはない。
「裏切った議員には、報いを」
その背景について、労働問題研究の第一人者である昭和女子大学特任教授の木下武男氏が解説する。
「東京電力が労使一体となった時期は早く、'60年代にさかのぼります。なぜ、それが可能になったかと言うと、危険な作業は外部委託し、社員を厚遇したからです。原発は創生期から、社員が担当するのは安全な運転業務で、被曝の恐れがある機器の補修、点検などは下請け作業員任せ。こうして東電労組には、同じ労働者でも自分たちは下請け作業員とは身分が違うという特権階級意識ができたわけです。
東電において、労組に楯突くことは会社に楯突くのと同じで、会社が推す東電出身議員や原発推進派を応援しないと、査定にも響く。この構図は東電だけでなく、他の電力各社も同様です。電力産業は全国組織であり、発電所や営業所が全国各地にあるから、その影響力は絶大。政治家は原発に賛成するか否かで、彼らの支援が得られるかどうかが決まるのです」
「票とカネ」で政治家の生殺与奪は思いのままという労組幹部の驕りは、3・11以降も何ら変わらない。
「裏切った民主党議員には、報いを」
5月29日、東電労組の新井行夫・中央執行委員長は、中部電力労組の大会に招かれ、こう噛みついた。新井氏の発言は次のように続く。「(自分たちを)支援してくれるだろうと思って投票した方々が、必ずしも期待に応えていない」
政府による実質的な国有化が決まったにもかかわらず、この強気。東電本体が1兆円の公的資金(=税金)を受けるのに、政府に「社員のボーナスを」と要求したのと似ている。政治家は完全にナメられている。
本誌は今回、「原発再稼働」を推進している議員30名にアンケートを行った。もちろん、推進派が30人しかいないわけではなく、これまでの発言(オフレコも含む)などを調査し、推進が明確な議員を抽出した。ところが、結論から言えば、回答したのはわずか5人。この5人はいずれも「原発再稼働について賛成」と回答している。
民主党では経団連初代会長・石川一郎の孫にあたる下条みつ衆院議員と東電出身の加賀谷健参院議員、環境相時代に「温暖化を考えると原発は不可欠」と語り、党の原子力政策推進に一役買った小沢鋭仁衆院議員の3名。「賛成の理由」欄には、それぞれこう答えた。
「ただし、安全面の態勢整備、住民への説明が必須」(下条氏)
「電力不足は日本の経済活動、国力を低下させ、雇用や国民生活に重大な影響を与える」(加賀谷氏)
「すべての再稼働ではなく、必要不可欠なものを厳選すべき」(小沢氏)
また、自民党では菅直人総理(当時)の浜岡原発停止に正面から反対した石破茂前政調会長が唯一、回答。
「耐震のみならず、津波、水害などあらゆる想定に対処しうる態勢を整えた安全性の高い新型炉を限定的に稼働させるべき。国は電力の安定供給に責任があり、再生可能エネルギーへの大幅シフトまでの間は一定割合、原発を使用せざるを得ない」
そして、3・11後の昨年5月に作られた超党派の「地下式原子力発電所政策推進議連」会長である、たちあがれ日本の平沼赳夫代表。
「安全性を十分担保して、日本の経済の安定維持のため、稼働可能なものは動かすべき」
再稼働に賛成するこの5人にしても、「将来のエネルギー政策においても原発は必要か」という問いには、「必要」(平沼氏)から「できるだけ早く全廃」(小沢氏)まで、幅広い。
本誌は、原発がまた事故を起こすようなことになれば日本は完全に終わりであり、経済にしても、原発による電力には頼らない前提で考えるべきだと再三主張してきた。その点で、この5人の主張とは異なるが、政治家として自らの信条を堂々と語ったことは評価すべきだろう。卑怯なのは、再稼働を支持しながら、それを明言しない議員たちである。
「いま原発推進派と言われてきた議員の多くが『推進』から『容認』とトーンを下げています。民主党では菅さんが脱原発を宣言したときは、推進派が随分強い調子で反論した。それに対し、ある中堅議員が『あんなに強硬に推進を言ったら、有権者が離れちゃうよ』と言ったところ、それが説得力を持って党内に広がった経緯がある。最近では民主党の推進派の発言は『原発の新規建設は無理だが、安全が確認されたものは再稼働するべき』というトーンで統一されています」(全国紙政治部記者)
「票とカネ」を失いたくないから「脱原発」とは絶対に言えないが、「原発推進」を公言すれば、世間の反発を買う。それなら、黙っておくのが一番ということだろう。
ただし、本誌のアンケートを無視し、沈黙を守っていても原発推進がはっきりしている議員は少なくない。その代表格が電力総連の組織内候補である民主党の小林正夫、藤原正司両参院議員。小林氏は元東電労組副委員長にして元電力総連副会長、藤原氏は元関西電力労組執行委員長で、両者には関連の政治団体などを通じて電力総連からそれぞれ約4000万円、約3000万円('06年~'09年分)のカネが流れている。
アンケートに回答できない理由について事務所に尋ねると「回答を見送らせていただきます。理由? 特にありません」(小林正夫事務所)、「出張が立て込み時間を取れませんでした」(藤原正司事務所)。
ここでは、アンケートの回答に代えて、3・11以後の両者の代表的な言動を紹介しておく。
小林氏は5月16日、電力総連の種岡成一会長、藤原氏らと民主党の樽床伸二幹事長代行を訪問。「原発の再稼働に格段の配慮を」といった申し入れを行ったと、HPで組織への貢献度をアピールしている。
一方、藤原氏はここまで原発への嫌悪感が広がるとは予想していなかったのだろう。原発事故から約4ヵ月後の時点で、こんな発言を残している。
「半年もたてば、世論も変わるわ。(略)震災後、原発を減らせという評論家が増えたが、産業・経済はどうなる。お父ちゃんの仕事がなくなってもええんだったら検討しましょうよ」(毎日新聞'11年7月20日付朝刊)
口をつぐむ推進派議員たち
他にも回答しなかった議員のなかから、原発産業との関連が深い議員を列挙すると、次の通りだ。
【民主党】
●川端達夫総務相(ウラン濃縮のための炭素繊維を開発する東レ出身で、文科相として、もんじゅの運転再開を決定)
●大畠章宏元経産相(原発プラントメーカーの日立出身で、電気メーカーの労組「電機連合」の組織内候補)
●驫木利治参院議員(原発部品を受注する大同特殊綱出身で、鉄鋼労組「基幹労連」の組織内候補)
●松岡広隆衆院議員(関電出身)
●柳澤光美参院議員(民主党の支持母体「連合」の最大勢力「UIゼンセン同盟」元政治顧問で、経産副大臣として大飯原発再稼働の地元説明会に出席。「福島のような事故は起きない」などと説明)
●直嶋正行元経産相(自動車業界の労組「自動車総連」の組織内候補で、党の成長戦略・経済対策プロジェクトチーム座長として、早期再稼働を主張)
ちなみに、「大飯原発の再稼働がなければ関西は計画停電」「そろそろ(再稼働の)判断のタイムリミット」などと語る前原誠司政調会長にも議員会館の事務所にアンケートを申し込んだが、主旨を説明した途端に「ウチはいいです」と拒否。その後、渋々といった感じでアンケート用紙だけは受け取ったが、回答はなかった。
次の総理が民主党内から選ばれるかどうかは不明だが、現時点では次期総理候補にも名前が挙がる前原氏。原発再稼働という日本の未来を左右する問題について、主義主張を語れないようでは心許ない。
【自民党】
●谷垣禎一総裁(「個人的見解」と断りつつ、「再稼働しないと経済の混乱や不都合が起きる」と発言)
●石原伸晃幹事長(福島原発事故への反応を「集団ヒステリー」とし、「反原発運動はアナーキー」などと発言)
その自民党のなかでも、脱原発の動きに対抗して、推進派議員が立ち上げた「エネルギー政策合同会議」の委員長に就いた甘利明元経産相は、麻生太郎元首相、大島理森副総裁、石破氏、石原氏と並んで、東電役員がパーティ券購入などで特に便宜を図ってきた議員の一人。
他に自民党では、地下式原発を提唱し、先に触れた「地下式原発議連」事務局長を務める山本拓衆院議員も、環境への影響を理由に「脱原発は無責任」と主張している。
無所属の議員で原発推進の大物と言えば、事故後に「原子力発電は大事だ。(原発を)推進してきたことは、決して間違いではない」と断言した日本原子力発電出身の与謝野馨元財務相が代表格である。
一貫して「脱原発」を訴える社民党の福島みずほ党首が語る。
「民主党でも自民党でも、電力業界や経済界と密接な関係があって、その応援がないと選挙で困るから、内心は原発反対でも言えない議員はいます。逆に脱原発を口にしているのに、大阪の市民が関電に対して原発反対の署名を集めたら、労働組合の応援が欲しいのか、最後まで理由をつけて署名しない議員もいました。
野田総理だって、民主党の人気を考えたら、再稼働に反対したほうがいいのに、それができないのは、電力会社、経済界、それに財務省や経産省の圧力がかっているのだと思います」
「安全」は二の次、三の次
口を噤む政治家たちに代わって、再稼働推進を隠さないのが、経産省や財務省の官僚たちである。
橋下徹大阪市長のブレーンとして大阪府市統合本部特別顧問を務める環境エネルギー政策研究所長の飯田哲也氏が言う。
「再稼働に積極的な人たちの一つの目的はおカネでしょうが、それだけでここまでバカなことはしない。他に要因があります。その一つが、官僚たちの思考停止。私は『官僚レミング(集団自殺)』と呼んでいますが、あれほどの事故を起こしながら、経産省、原子力・安全保安院、原子力安全委員会で誰一人責任を取らされなかったので、同じメンバーが同じメンタリティで3・11以前と変わらないルーティン・ワークをこなしている。悪いことをしたと思っていない官僚たちが、考えを改めるはずもありません。
彼らは事故前の権限を手放したくないし、現に経産省はエネルギー行政の権益を守ったどころか、原子力損害賠償支援機構で一時国有化する東電まで自分たちの手に入れた。さらに、機構からは東電救済のために9000億円の交付国債を投じたから、財務省は何としてもこれを回収したい。メガバンクもこれまでの債権を回収するつもりだから、再稼働せずに電力会社が倒産するような事態になっては困るのです」
だからこそ、再稼働を推進したい原子力ムラの住民たちは、ありとあらゆる手を使う。核燃料サイクル政策の見直しを行っている内閣府の原子力委員会が、推進派だけを招いて秘密会議を行っていたことなど、最たる例だろう。
だが、原発に群がる人々だけがいい思いをする状況は3・11を境に終わった。それを認めようとせず、あの事故に学ばない人々に国を任せれば、「一刻も早い再稼働」に向かうのは当然の帰結。しかも、彼らは「脱原発を言うのは、バカな国民だけで、自分たちこそが日本の将来を真剣に考えている」と思い込んでいる。
電力総連事務局長・内田厚氏の話からは、その自負が覆い隠しようもなく伝わってきた。
「あれだけの事故が起き、公平な目で見れば、原発がなくて済むならなくていいと思いますよ。危険なものを扱っているわけですから。でも、原発がないと、電気料金が2倍になる試算もある。それだけの国民負担、経済負担ができるかと言えば、日本経済がガタガタになる可能性もある。原発を使わないと、この国が成り立たないから、やむを得ず使うんです。
JALやりそな銀行を例に、電力会社はもっと身を削るべきだという声もありますが、電力はそう簡単ではない。飛行機なら赤字路線を削ればいいけれど、山間部はコストがかかるから電気を通しませんと言って通用しますか。我々はそこまで考え、原発を除外するのも一つの考え方だけれど、それでは国民生活も経済活動も破綻するから、原発を一定程度、基幹エネルギーとして持ちつづけなければならないと言っているんです。脱原発だけを言う政治家は、大衆迎合主義、ポピュリズムに乗りすぎじゃないかと感じます」
「大衆と共に」という思想から生まれたはずの労組幹部から「大衆迎合」という言葉が出ることに違和感はあるものの、内田氏の物言いは、自らの保身第一で口を噤む推進派議員たちよりはよほど率直で潔い。
どうしても再稼働が必要だと考えるなら、国民を説得するのが政治家の役割であり、説得できないのなら諦めるべきだろう。再稼働にこだわる政治家たちにとって、それはカネや自己保身の問題かもしれないが、3・11に学んだ多くの人にとって、原発再稼働は「命の問題」そのものなのだ。
「週刊現代」2012年6月16日号より
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