関電、九電が冬の自主的な節電要請を行なった。夏場と違って冬場は家庭が節電要請のターゲットになるという。寒さに怯える弱い立場の国民に、原発を稼働させなければ停電するぞと言わんばかりの脅しをかけて、一気に再稼働に踏み切ろうという経産省ぐるみの詭計であることは今更言うまでもないことで明らかである。そして、このような要請を公共放送を通してまことしやかに行う事自体、許せない暴挙と言える。
日本の電力各社が、もし本当に危険極まりない原発に依存しない限り、安定した電力の供給ひとつできないのならば、国は電力会社の地域独占制度を一刻も早く撤廃し、送電線分離、電力の自由化を図るべきである。
以下、電力不足の嘘について指摘した、ダイアモンド社の記事を転載する。
原発停止でも供給に余力
「西日本は電力不足」のウソ
政府と国のちぐはぐな安全対策と九州電力の不祥事が重なり、すべての原子力発電所が停止しかねない局面を迎えている。定期検査に入った原発の再稼働ができなくなることで、電力各社は「電力不足になる」と盛んに訴える。しかし、本誌の試算では、その事態を乗り越えられる余力があることが判明した。
やらせメール問題で国に謝罪した眞部利應・九州電力社長(左上)と玄海原発の再稼動の同意を撤回する岸本英雄・玄海町長(右下)。会見で節電要請した八木誠・関西電力社長(左下)
Photo:JIJI
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「原子力発電所が止まれば電力不足に陥る」とはウソだった──。
原発再開の見通しが立たなくなり、電力会社は「原発停止により電力不足に陥る」と訴え、世論を動かそうとしている。特に中部電力を含めた西日本においては不安が広がっている。しかしながら、後述する本誌試算により、電力会社の言う「電力不足」には数字的根拠がないことがわかった。
まずは原発再開のメドが立たなくなった経緯について振り返ろう。
事の発端は、言うまでもなく福島第1原発の事故である。
原発は原則13ヵ月に1度定期検査を受けなければならない。検査後に国が認め、地元自治体の了解を得て再開の運びとなる。3月の事故後、収束時期も見通せないなかで、どの自治体も定期検査に入り停止した原発の運転再開に、お墨付きは与えられなかった。
輪をかけたのが5月の浜岡原発の停止だった。法律の枠を超えた菅直人首相の「要請」で、浜岡原発が停止した。その根拠はあいまいで自治体はなぜ他の原発が安全なのかを説明できなくなった。
他方で国は3月末に安全対策を指示し、電力各社もその対策を講じていた。海江田万里経済産業相は6月18日に安全宣言を出し、自治体へ再稼働を要請するために駆け回っていた。
混乱に拍車をかけたのは、またもや菅首相であった。7月に入って突如、別の試験を行うと発表した。原発の安全性を調べる耐性検査(ストレステスト)である。机上の計算とはいえ数ヵ月から半年の時間がかかる。国が安全宣言を出したにもかかわらず、菅首相自らがハシゴをはずしてしまった。
この間、運転再開を迎えようとしていた原発もあった。九州電力の玄海原発2、3号機だ。地震や津波の影響が最も少ない地域にあり地元感情もよく、稼働率も高い「優等生」だ。玄海町も一度は再稼働を認めていた。
ところが、耐性検査に加え九電のやらせメール問題が発覚した。国主催の佐賀県向けの住民説明会で九電が組織的に再稼働への賛成を促す工作を行っていた。地元との信頼関係は崩れ去った。
こうして原発は再稼働の見通しが立たなくなった。このままでは上図に示すように徐々に原発は止まり、来年3月は全体の4%に当たる209万キロワットしか運転していない見込みだ。
関西電力や九電などは原発停止を受け、盛んに電力不足を訴えた。世論もそう信じているが、本当に電力は足りないのだろうか。
1500万キロワットの余力に
電力融通でまず問題ない
そこで本誌は余波の広がる西日本の設備について取材や資料を基に精査した。するとじつは電力が余っている実態が浮かび上がった。
試算の結果は上図に示した。試算方法は次のとおりだ。
まず各社の発表を基に西日本6電力会社における8月の最大需要と供給力を見た。安定的な供給力の目安となる「供給予備率」では、最低限の5%を下回る電力会社が6社中4社に上った。
確かに予備率5%を下回るとトラブル一つで停電の恐れもあるが、供給力は「言い値」にすぎない。そこで予備率5%を確保するのに必要な正味の電力をはじき出した。
次に、各社が国に申請した最大出力から8月の供給力との差を求めた。じつはこの差が自社内に隠された電力の余力、いわば“隠し玉”だ。中部電力は供給力の内訳を公表していないため本誌が他社受電の状況などから推計した。
結果として、原発が停止したまま8月を迎えても西日本で最大約1500万キロワットの余力があることがわかった。北陸電力の97万キロワットから関電の311万キロワットまでいずれも余剰電力を持っていた。
隠し玉として大きいのは長期停止中の火力発電所だ。西日本だけで計597万キロワットある。「復旧に数年はかかる」と電力会社は言うが、じつはいざというときのために廃止せず、眠らせていたもの。その一部を立ち上げることは当然可能だ。東京電力や中部電力も今回、実際に立ち上げている。
それとは別に今動かせる火力や水力などの発電だけでも余剰が計927万キロワットある。フル出力を出せるわけではないが、運用改善で一部をひねり出せる。
余力はそれだけではない。電力会社が大口の需要家と結んでいる、一時的に需要をカットする「需給調整契約」もある。ピーク時に供給が需要に追いつかない場合は、企業に需要を抑えてもらう代わりに電気料金を安くする契約だ。需要減を供給力と見なせば、100万キロワット以上は確保できている(四国、中国、中部電力は非公表)。
それでも足りないというなら6社間で電力を融通すればよい。この6社は60ヘルツ圏内で交流送電線で結ばれており、電力の融通は容易にできる。
たとえば、中国電力は昨夏の猛暑を原発なしで乗り切っている。今夏は島根原発2号機が動いており、100万キロワット程度は他社に送ることができそうだ。関西電力は応援融通を受ければよい。
北陸電力も供給予備率を1.8%としながらも、じつは他社に送る20万キロワットを自社の供給力に織り込んでいない。融通をやめるだけで5%台に予備率が戻る。
試算には入れていないが、このほかにも他企業の自家発電から買い増すこともできる。東電はすでに余った電力を西日本に融通することも表明している。
夏ではなく、冬場における電力不足の懸念もあるだろう。だが、同様に試算すると、やはり解決できそうだ。
四電は予備率がマイナス9.5%、九電も1.9%と単独では需給が逼迫するが、全体の供給余力は約2000万キロワットあり融通さえできれば問題はない(最大需要は10年1月最大3日平均値)。
夏も冬もあくまで数日間のピーク需要の5~6時間に備えるだけである。もしものときには前日の需要予測を基にして、節電を呼びかけるなどすれば、停電危機を避けることは大いに可能なのだ。
脱原発に賛成するかどうかは別として、「原発停止=電力がない」というのはウソである。赤字転落を防ぎたいための情報操作のそしりを免れない。電力会社が国民の信頼を失った今、供給力の数字を化粧でごまかすことは、さらに実態を悪化させる。電力各社は、正味の電力供給力と内訳を世に明らかにすべきだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
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